誰がために−8


キラは女の子です


「あ・・・、サイ、トール」



アスランの胸から頭を起こしたキラは、アスランの視線を追って背後を見た。

そこには、つい先ほどまで一緒にいた友人達の姿がある。

泣き濡れたまま振り返ったキラは、彼らの名を呼びながら、目元を拭った。



「大丈夫か!?

 そいつに、何された!?」

「キラ、泣くようなこと、されたのか!?」



不自然な距離から焦ったように訊いてくる2人に、キラは違うと首を振る。



「私の、幼なじみなの」



誰がとは言わずとも、サイもトールも、それがキラを腕に囲い込んだままのそのザフト兵のことだとは、わかった。

そして、トールは以前ミリアリアから聞いたキラの幼なじみの話を思い出す。



「月にいた時のか?

 消息がわからないとかいう?」

「消息がわからないんじゃなくて。

 連絡がとれなくなっただけ。

 プラントにいるのは知ってたもの」



穏やかに話すキラは、どう見ても自分から背後に立つ幼なじみとやらに身を任せていた。

どうやら心配いらないらしいと、サイとトールもやや落ち着きを取り戻す。



「だけど、なんでザフト軍にいるんだ?

 キラと親しくしてたんだったら・・・」



キラの両親はナチュラルなわけで。

それなのに、地球軍・・・ナチュラルと戦うザフト軍にいるというのは、と。

不審そうに問いかけるサイの言葉に、キラもハッとした。



「ザフト・・・?」



キラが捻っていた首を戻してアスランを見上げると、アスランもキラと目を合わせる。



「アスランが、ザフト?

 ほんとうに?

 ・・・どうして?」



アスランも、戦争を否定していたのに。

同じ人間同士で戦うなんて、おかしいって言っていたのに。

なぜ?



キラはアスランがどうしているだろうと、よく考えていた。

彼が、プラントでも名門の出なのは知っていたから。

いろいろと、想像したりもした。

けれど。



軍人なんて、アスランには似合わないのに。

似合わない、はずなのに。



答えないアスランとキラとが、ただ見つめ合う。

だがそれを。

凄まじい轟音が、妨げた。



「「「!」」」



キラ、サイ、トールが目を見開いて見る中、大きなシャッターが壊されていく。

アスランはキラを庇うようにその前に立った。

ラスティも身構える。

アスランやラスティにとって、サイもトールも既に警戒するに及ばないと判断していた。

だからそれよりも、今、ここに入ってこようとしているのが敵である可能性に警戒する。

だが。

すぐに2人は肩の力を抜いた。



『アスラン!ラスティ!』

「「ミゲル・・・」」



空いた大穴から姿を現したのは、ザフトのモビルスーツ・ジン。

アスランとラスティの仲間で、先輩パイロットだった。



『・・・なんだ、無事だったのか?

 なら、さっさとそいつを持ってこい』



予定よりも遅れていた2人を援護しに来てくれたらしい。



『急げ。

 どうも、まずい感じだ。

 戦艦は思ったより頑丈だったみたいだぞ』



その攻撃で、コロニーを支えるシャフトが切れていくと。

そう続けられて、思わずキラが叫んだ。



「そんなこと!

 そんなことしたら、ヘリオポリスが・・・っ」

『そいつら、なんだ?

 地球軍・・・じゃないよな?』

「民間人、みたいだよ」

『はっきりしないのか?』

「俺達は、工業カレッジの学生です!」

「地球軍じゃないし、モルゲンレーテの人間でもないです!」



身の安全の為にも信じてもらわなくてはと、トールとサイが身を明かす。



「ん・・・まぁ。

 こっちの女の子はアスランの幼なじみらしいから。

 信じて、いいかもな」



ラスティの示す先をミゲルが拡大表示にすると。

アスランの腕にしがみつくキラと、宥めるようにその頭を撫でるアスランがいた。



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