誰がために−7


キラは女の子です


「誰だ!?」



と。

そう声を上げたアスランは、返された声とその姿に息を呑んだ。



キ・・・ラ?

いや、キラがこんなところにいるはずがない。

ない・・・はずだ。



ラスティがキラと・・・キラに見える少女とやりとりする間、アスランはただ彼女を見つめる。

よく見えるよう、ヘルメットのシールドも上げてしまった。

顔をさらしたアスランだったが、彼女の意識はラスティに集中しており、アスランには気づかない。

だが、それでもアスランは彼女がキラだと、そう思った。

だから彼女・・・キラが飛び降りた時も。

ラスティが慌てるのを横目に、アスランは平然としていた。



キラなら、このくらいできる。



すぐ傍に降り立ったキラを前に、アスランの中に喜びが満ちる。



3年・・・か。

綺麗になった。



アスランは衝動に突き動かされるままスタスタとキラに近寄った。

そしてキラがアスランに気づいていないのを承知のまま、彼女を抱きしめる。

驚いたのだろうキラが藻掻くのに、いっそう腕に力を込めた。



ちっとも俺を見てくれない、キラが悪い。



少し意地悪な気持ちも手伝って、わざと先に声をかけず、その耳元でその名を呼ぶ。

それに反応したキラに、アスランの気持ちはもう止まらなかった。

キラが生きていてよかった、と。

そう思う。

音信が絶えてから、ずっと。

アスランはキラの行方をずっと心配していた。

もともと先に連絡をとれなくなったのは、アスランの方で、キラではない。

地球・プラント間の緊張が高まり、その影響はプラントのアスランに出た。

当時のアスランには、どうすることもできず。

なんとか月の知人と連絡がとれた時には、既にキラの一家はそこにいなかった。

その時は、だが。

もちろんその生死までも考えたりはしていない。

ただ、早く平和になって、キラを捜したかっただけだ。

それを思ったのは。



『血のバレンタイン』



アスランは初めて、キラに二度と会えない可能性を見る。

だから。



「キラ」

「アスラン、アスラン、アスラン・・・っ」



紫の瞳から透明の雫を溢れさせながら抱きついてきたキラを、アスランは二度と放さないと決めた。

昔から変わらないキラの柔らかな髪に口づける。



やっと、取り戻せる、と。



***



下に降りてきたトールとサイの目に飛び込んできたのは、キラの背と彼女を羽交い締めにしたザフト兵の姿だった。

実際にはキラが抱きついて、それをさらに強く抱きしめるアスランなのだが、事情のわからない彼らにはそうとしか見えない。



「な、何やってるんだ!?

 キラを放せよ!」



一瞬、棒立ちになった彼らは、相手が銃を持っていることも忘れて駆け寄った。

だが、傍らに立つもう一人の兵士・・・ラスティに静止させられる。



「待て!」



ビクンと、少し距離を置いて立ち止まった2人に、ラスティはそれでいいと頷いた。

そしてラスティは、ツカツカとアスランに近寄る。



「おい、アスラン!

 どういうことだ!?

 知り合いなのか?」



もちろん、2人のやりとりを見せられたラスティにはそうとしか見えなかった。



知り合いってぇより、恋人?

んな感じだよな。



わかっていても確認しないことには始まらない。

というよりも。

現状を忘れ去っているようなアスランを、このまま放置するわけにはいかなかった。

だから声を掛けたのだが。



理不尽だ!

なんで俺が睨まれる!?



ほんの一瞬、ラスティを振り返ったアスランは、明らかにラスティを睨んでいた。

しかしすぐに思い出したのか、さっとまわりを見回す。

トールとサイとに目を止め、ついでラスティをもう一度見た。

そして、胸で泣いているキラを見下ろす。



「キラ。

 彼らは、君の友達かい?」



アスランの声に、キラがピクンと反応した。



*** next

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