キラ Ver.B−1 TV本編28話より


キラは女の子
「キラ 序章」の続きの場面から


「君、の?」

「うん」



アスランから差し出された、トリィ。

そして、その他人行儀な言葉。

それが、キラに自分とアスラン、そしてアスランの背後の3人の立場を思い出させた。



彼らに、気づかれちゃいけない。



「ありが、・・・え!?」



礼を言うキラの言葉が、途切れる。

トリィを受け取ろうと柵の向こうへと伸ばした手を、アスランに掴まれたのだ。

驚いて手を引こうとするが、手首を掴む手は緩まない。



「アス・・・っ」



アスランの名を呼びそうになって、他の人間の存在を思い出し、口を噤んだ。

それでも手を引き戻す力を込めるが、キラの力がアスランの力に勝てるわけもない。



「は、放して・・・っ」

「・・・」



なんで!?

どうして、こんな・・・?



無言のまま見つめてくるアスランに、キラは泣きそうになる自分を抑えた。

キラは、今のアスランが怖い。

アスランが、こんな感情を映さない瞳をキラに向けるなど、あり得なかった。

キラの前にいるこのアスランは、キラの知らない人に見える。



でも、アスランなんだ・・・。



キラが手を引いても、ビクともしない。

アスランが自分から手を開かない限り、キラの手は拘束されたまま。

助けを呼ぶことはできるが、それはアスランを危険にする。



騒げば、アスランはきっと捕まっちゃう。

ううん。

悪くすれば、殺される・・・?

イヤよ、そんなの!



キラはもう、何が何やらわからず、涙を堪えながら手を引き続けることしかできなかった。

アスランはキラの手首を掴み、キラはその手を引き戻そうとする。

どちらも口を噤んだままのその不審な行動を止めたのは、イザークだった。



「アスラン、何のつもりだ!?

 その手を放せっ」



こんなところで騒ぎを起こすな、と続けるイザークに、アスランよりも他の2人の方が反応する。

みんな・・・イザークも含めて、アスランの突然の暴挙に呆然としていたのだ。

最初に我に返ったイザークの声で、ディアッカとニコルも事態を思い起こして焦る。



「まずいですよ、アスラン!」

「おい、女の子に乱暴するなよっ」



騒いで、困るのは自分達なのだ。

この目の前の彼女が叫んだりすれば、それだけで自分達が進退窮まる。

しかしアスランに手を放させて、今さらそれで済むだろうか?

悩む彼らの前で、やっとアスランがその口を開いた。

キラへと。



「キラ、何故まだそこにいるんだ?」

「アスラン・・・?」



何を言われているのかわからず、キラは首を傾げる。



「まだ、降りないつもりなのか?

 まだ、戦いたいのか!?」

「ち・・・、違うわ!」



一転、表情を怒りへと変えたアスランに、キラはビクッとしながら否定した。

アスランの手に一段と力が入り、キラの手首は悲鳴を上げている。

しかしそんなことは、キラには気にならなかった。

それよりも、アスランが自分に向けるその怒りが辛い。



「お、降りられないの!

 やめたくても、やめられないのよ!

 戦いたくなんて・・・っ」



戦争なんて、イヤ。

まして、アスランと戦うなんて。

やめられるものなら、今すぐにだってやめたい。

だけど。



さらに続けようとしたキラを、しかし別の声が遮った。



「キラーっ!」



突然響いた高い声に、キラもアスランも、他の3人もが揃ってそちらに顔を向ける。



「「カガリ・・・」」



キラの後方から駆け寄ってくる少女の名を、キラとアスランが呟いた。

驚いたのは、キラである。



アスラン、カガリを知っているの?



キラはアスランとカガリとを不思議そうに見比べた。

やがて間近に来たカガリの必死の形相に、キラはやっと状況を思い出す。



「アスラン、逃げて!

 早く!」



アスランがカガリを知っているなら。

カガリもアスランを知ってるかもしれない。

ううん、カガリのあの顔は、きっと知っているんだわ。

アスランが、ザフト軍の兵士だって。



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