キラ Ver.B−29


キラは女の子


「アスランを笑ったんじゃないのよ。

 というか、おかしくて笑ったわけじゃなくて。

 昔みたいだな、って嬉しくて。」



そう言って無邪気そうな笑顔を向けてくるキラには、まだどことなく違和感がある。



ずっと、キラは苦しんできた。

俺も、辛い思いをさせてしまった。

だが。

そう。

過去を消し去ることはできない。



アスランがじっと見つめていると、キラが照れくさそうに目を逸らした。



「それで、話は終わり?」

「いいや。

 もう一つ、大事な話もあるよ。

 本国へ戻ることが決まった」

「・・・え?」



きょとんとした顔で、アスランを振り返るキラに、今度はアスランが笑いたくなる。



不意をつかれると、咄嗟に対応できないのは、昔のままだな。



気を張っていない時のキラは、どこか呆けているように見えるのだ。

反射神経も運動神経も鈍いわけではない。

・・・鈍くては、モビルスーツなど動かせるはずもないのだから当然だけれど。



「近日中に、宇宙へ上がる。

 キラと、俺。

 それにイザーク達3人も、ね」

「・・・突然ね」

「ああ。

 隊長が評議会に話をまわしたらしい。

 キラを連れて、出頭するように、と」

「私?」

「心配いらないよ。

 近く、大規模な作戦が予定されているんだ。

 それにキラが・・・民間人が巻き込まれないようにと。

 そう、通達が来てる」



アスランが抱き寄せると、キラは一瞬緊張し、だがすぐに力を抜いた。



「プラントに戻ったら、いろいろ案内するよ。

 しばらく、休暇がもらえるからね」

「・・・その作戦には、アスラン達は参加しないの?」

「地球上でのことだから。

 俺達の機体は、宇宙用に開発されたものだろう?

 もともと、俺達は計画に組み込まれていなかったんだ。

 逆に手薄になる本国を守る」

「そう・・・」

「だから、キラ。

 キラは、行きたいところは、あるかい?」

「・・・やぁね、アスラン。

 私、プラントのこと、ほとんど何も知らないのよ」

「ああ、まぁ、そうだけど」

「ん・・・でも、そうね。

 アスランの育ったお家を見てみたいな。

 月に来る前と同じ家なんでしょう?」

「・・・ああ」

「じゃあ、そこ。

 あ、でも。

 一番行きたいところが、あったわ」

「キラ?」



一段低い声を発したキラに、アスランが戸惑う。

そのアスランを見上げて、キラは望みを口にした。



「お墓参り。

 おばさまの、眠っているところへ」

「母上の?

 だが・・・」

「ユニウス7では、みんなで折った紙の花を手向けたの。

 だから、今度は生きたお花を送りたいわ。

 おばさまは、嫌がるかもしれないけどね」

「そんなわけ、ないだろう?

 キラが来てくれれば、喜ぶよ。

 母上は、キラをとても気に入っていたからね。

 キラだって、知っているだろう?

 実の子の俺より、キラが欲しいって。

 いつも言っていたじゃないか」

「・・・私、地球軍に協力していたから。

 おばさまは、こんな私はもう・・・」

「母上には、きっとわかっているよ。

 キラがどうしてそうしたのか。

 どちらかというと、危ないのは俺の方だろうね。

 それでいうなら」



俺は自分ばかり辛いと思い込んでいたんだからな。

なぜ、キラの苦しみをわかってやらなかったのか、とか言いそうだ。



苦笑するアスランのその首に、キラが腕をまわしてしがみつく。

そしてアスランの耳元で、キラは囁いた。



「大好きだからね、アスラン。

 たとえ。

 たとえおばさまが反対したって、もうアスランから離れてやらないから。

 忘れないでね」

「ああ、キラ。

 俺も、キラを放す気は無い」



アスランはキラが息苦しくなるほど強く抱きしめながら、続ける。



「誰が反対しようが、関係ない。

 俺は、キラだけいれば、いい。

 愛してる、キラ」

「ええ。

 ええ、アスラン。

 私も、アスランを愛しているわ・・・」



アスランの手がキラの顔を上向かせると、近づいてくるアスランに、キラは目を閉じた。



***end

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