キラ Ver.B−21


キラは女の子


「キラ」



周りから他人の気配が消え、アスランの腕の中でキラがもぞっと動く。

アスランから離れようとするその微かな動作に気づき、アスランはハッとした。



「アスラン、私・・・」



背に回されていた腕から力が抜けると、キラはゆっくりと体を起こす。

俯いたまま元のように座り直すと、しばしの沈黙の後、やっと口を開いた。



「私はどうすれば、いい?」

「・・・キラ?」

「アスランは、みんなを見逃してくれたから。

 アークエンジェルはこれできっと。

 無事に、着ける。

 きっともう大丈夫だから。

 だから、・・・私は。

 私は、・・・え?」



急に立ち上がったアスランに、言葉をとぎらせたキラは、次に感じた浮遊感に目を瞬く。



「あれ?

 えっと・・・。

 ア、アスラン!?」



キラがアスランに抱き上げられたことに気づいた時は、既に2人は通路に出ていた。



「お、おろ・・・っ」

「降ろして?」



アスランが言うのに、うんうんと頷くキラは、しかし暴れるでもなく、アスランの肩へと腕をまわしている。

頬を赤らめていることからも、嫌がっているのではなく、恥ずかしがっているとアスランにもわかった。



「なんで?」

「あ、ある・・・っ」

「歩ける?

 わかってるよ。

 でも、俺がこうしたいんでね」

「ど、どこへ?」

「俺の部屋。

 キラは少し、休んむべきだよ」

「で、でも!

 私、話が!」

「俺もしたい。

 だけど、今のキラじゃ、駄目だ」



アスランには、キラが何かを思い詰めているのがわかる。

キラが気にしていた友人達とやらのことは、一応の解決を見た。

彼らザフト軍が、”足つき”を追わず、オーブ近海から引き上げることで。

たが、未だにキラは、笑顔を見せない。

もちろん、今までの経緯を考えれば、無理もなかった。



「アスラン!」

「疲れている時は、よくない事ばかり考える。

 そんなキラは、見ていたくない」



そう、こんな風に。

アスランに向ける顔に、わずかでも怯えの影を見るなど・・・。

キラには、アスランの横で、笑っていて欲しかった。

昔のように。

安心しきった、懐かしい笑顔を取り戻したい。



「アスラン・・・」



***



ベットに寝かしつけられたキラは、しかし立ち去ろうとしたアスランの腕を咄嗟に掴んだ。



「キラ?」

「どこ、行くの?」

「どこって・・・」

「ひとりにしないで」



不安げに瞳を揺らして見上げてくるキラに、アスランが戸惑う。



やっと、会えたのに。

いつまでこうしてアスランの傍にいられるかわからないのに。



アスランが背を向けた途端、キラの中に不安が湧いたのだ。

そして改めて、キラは時間を惜しむ。

自分がストライクでやってきたことを思うと、キラ自身に未来があるだろうかと。

わからない未来に、キラの望みはアスランだけだった。



「アスランといたいの。

 ダメ?」



泣きそうな顔で懇願するキラに、アスランが逆らえるはずもなく。

まして、枕元に腰掛けたアスランに安堵の表情を浮かべたキラを見ては、もう・・・。

アスランの手がキラの髪を梳くように撫でると、キラが微笑んだ。



「笑ったね」

「・・・思い出したの。

 むかぁし。

 ちっちゃい頃。

 父さんと母さんが留守で、眠れなくて。

 アスラン、一緒に寝てくれたでしょ。

 ・・・ダメ?」



キラの言いたいことを覚り、アスランは唖然とする。

無邪気なキラの様子に、本当に昔を再現したいだけということもわかった。

しばしキラをまじまじと見つめた後、アスランは疲れたようなため息を吐く。



「キラ・・・」



*** next

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