キラ Ver.B−18


キラは女の子


「キラ・・・」



腕の中に倒れ込んだキラを、アスランは強く抱きしめる。

アスランもキラが何の話をしているのかわからなかった。

だから、キラを安心させることを言ってやれない自分が不甲斐ない。

せめてゆっくり休ませようと、キラを抱き上げようとするアスランだったが、それは叶わなかった。



「アスラン」



珍しく、ニコルが固い声で呼びかけてくる。



「先に、話を。

 彼女の状態が心配なのはわかります。

 わかりますが・・・」



たしかに。

話を先にするべきだろうと、アスランも思った。

特に、イザークには。

今のイザークには、キラは仇敵であるという認識が全てだろうと思う。

しかしイザークは、話のわからない人間ではなかった。

問題は、アスラン自身の話だけで、イザーク達を納得させられないだろうことである。

だが、先延ばしにすると、焦れて何をするかわからないという心配もあった。

だから。



「わかった」



アスランは、力の抜けたキラを部屋の隅にあるソファに横たえる。

キラの顔にかかる髪をそっと指先で払い、表情を改めて元の席に戻り、仲間達を見回した。



***



「・・・キラさんが、ストライクの?」

「嘘だ・・・」



モガッ



嘘だろーっ!?と大声で言いかけたディアッカの口を、ニコルが素早く塞ぐ。



「叫ばないでください、ディアッカ。

 キラさんが目を覚ましちゃうでしょう」

「×××!?」

「はい、はい。

 落ち着いてください。

 で、アスラン。

 ほんと、なんですよね?」

「ああ」

「それじゃあ、彼女はコーディネイターなんですか?」

「・・・そうだ」



この歳で、しかも女の身で。

モビルスーツの操縦が出来る人間が、まさかナチュラルだとは思わないだろう。

だから、このニコルの問いは予測されたものだった。

はっきりと肯定したアスランに、それまで黙っていたイザークが口を開く。



「裏切り者か・・・!」

「違う!」



憎々しげに吐き出されたこの科白を、アスランは強く否定した。



「どこが違う!?」

「キラは、第一世代だ」

「だから、どうだと・・・、なんだと?」



反射的に返しながら、途中で意味を飲み込んだイザークは、眉を寄せる。



「一世代目?

 あの年齢でか?」

「珍しいが、いないわけでもないだろう。

 キラの両親は、共にナチュラルだ」

「それではなぜ、彼女は地球軍に?

 ご両親がナチュラル。

 ご自分がコーディネイター。

 それで、地球軍に入るというのは・・・。

 不思議ですよね。

 そのあたり、どうなんですか?」

「それは俺も・・・」

「私が、友達を巻き込んでしまったから」



アスラン自身も答えを持っていない質問に、アスランの言葉を遮ってキラの細い声が答えた。

いつの間に気づいたのか、キラはソファの上に膝を抱えて座っている。

アスランはさっと立ち上がり、キラの前に膝をついた。



「キラ?」

「私が、ストライクに乗ってしまったから。

 みんな、一緒に拘束されてしまったの。

 みんなを死なせたくなければ、ストライクに乗らなくちゃいけないの。

 戦わないと、死んじゃうから。

 アスランと、戦うの。

 でないと、アークエンジェルが墜ちちゃうから」

「キラは地球軍じゃないと言っていたよね?」

「あの時は、そう。

 でも今は違うの」

「なぜ地球軍に?」

「・・・民間人が戦闘に関与すると犯罪だって。

 だから、日付をさかのぼって、志願兵なんだって」

「除隊は?」

「・・・地球降下前に除隊許可証はもらったけど。

 みんな軍に残るって」

「どうして?」

「・・・いろいろ。

 でも、あの時アークエンジェルから降りていたら」



死んでいた、と小さく続けられた言葉は、しかしその場によく響いた。



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