キラ Ver.B−16


キラは女の子


「少し、時間をくれ」



アスランは、キラの頭を撫でながら、誰にともなく言う。



「キラは部屋に置いてくるから、待っていてくれ。

 まずは、俺が説明する」



それを聞いて、声を殺しながら泣いていたキラが、ビクッとして顔を上げた。

泣き濡れた顔でアスランの顔を見ていると、アスランが見下ろしてくる。

優しく笑みを浮かべながら、取り出したハンカチでキラの涙を拭い、その額に唇で触れた。



「俺の部屋で、少しだけ待っていてくれ。

 もう、こんなことは無いようにするから」

「・・・イヤ」

「キラ?」

「もう、イヤ。

 ア、アスランと、アスランといる。

 それだけのために、私・・・っ」



またも涙を溢れさせたキラの頭を、アスランは自分の肩に押しつけ、宥めるようにその背をポンポンと叩く。



「ああ、そうだね、キラ。

 それじゃあ、一緒に来る?

 ・・・そう」



無言で頷いたキラを、アスランはその腕に抱き上げた。



「ア、アスラン!?」

「ちゃんと、掴まっていてね。

 ああ、暴れないで、キラ」



突然ふわっと持ち上げられ、びっくりして見回したキラは、降りようと藻掻く。

二人を見つめる3対の目に気づき、恥ずかしさに顔を赤らめながら。

だが、そんなキラの抵抗をものともせず、アスランは同僚3人に目で合図をすると、さっさと歩き出した。



***



「え?隊長から?

 ・・・繋いでください」



キラを含めた5人が場所を改めて、飲み物を用意して。

アスランが口を開こうとしたところで、艦橋から通信が入る。

ニコルが受けると、本国のクルーゼからだった。



『アスラン、怪我は大丈夫なようだな。』

「はい。

 ・・・それで、いったい?」



怪我、と聞いて、キラが震えたのを握った手から感じ、アスランは安心させるようにその手に力を込める。



『おや?

 もちろん、君の怪我を心配したんだよ。

 変かね?』

「隊長が、それだけのために、ですか?」



不審も露わに返すアスランに、モニターの中のクルーゼは、おかしそうにクックッと笑った。



『まぁ、それだけとは言わないな。

 艦長から連絡を受けてね。

 君らが、オーブに潜入して、少女を連れてきたと。

 そこに座っているのが、そうかね?』

「そう、です」



言いながらも、アスランはキラを隠すように位置を変える。



『そう警戒するな、アスラン。

 彼女は、君の幼なじみだという、キラ・ヤマトだろう?』

「・・・そう、です」



緊張するアスランの様子と、なぜかアスランの上司が知っている自分の名。

不安が高まり、キラは小さくアスランを呼んだ。

それに振り返ろうとしたアスランを、クルーゼの言葉が止める。



『さて、それで君はどうしたいのかね?』

「それは・・・」

「隊長!」

『何かね、イザーク?』

「隊長は、この女をご存じなんですか!?

 この女は・・・っ」

『アスランから報告を受けているからね。

 ああ、アスランには口止めがしてあっからな。

 まだ聞いていないのか?』

「これから、説明するところでした」

『それは、邪魔したね。

 で、君は彼女をどうする?』

「連れて、行きます」

『ふむ?

 まぁ、好きにしたまえ。

 では、”足つき”は?』

「ストライクを奪取しました。

 ”足つき”については・・・」



***



クルーゼとの通信を終え、体の力を抜いたアスランの肩に、キラが手を触れた。



「怪我、ほんとうに大丈夫?」

「平気だよ。

 そんなに心配しないで」

「でも・・・」



見つめ合うアスランとキラを、しかしイザークの怒鳴り声が遮る。



「さっさと、話をしろ、アスラン!」



”足つき”を追えなくなったイザークは、いらいらとその原因たる二人を睨んでいた。



*** next

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