キラ Ver.B−15


キラは女の子


「キラ!」



突然、苦しさから解放されたキラは、壁に背を預けたまま床に崩れ落ちた。

そのまま咳き込んでいるキラの肩に触れる手を感じ、ビクッとして振り仰ぐ。



「ア・・・」



キラは、心配そうなアスランを見て、体に入っていた力を抜いた。



「大丈夫か、キラ?」

「アス・・・」

「怪我は無いか?」



片膝をついたアスランは、キラの全身に目を走らせる。

そしてその手首に、イザークに握られた痕を見つけ眉をひそめた。



「首が痛いのか?」



首もとに当てられたキラの手を外し、アスランは赤くなったそこに、自らの手で撫でる。



「すまな・・・」



謝ろうとしたその言葉を言い切らぬうちに、突然動いたキラが、アスランに抱きついた。

互いの体勢から、キラがアスランの首にぶら下がるようになる。

キラはアスランの胸に額を押しつけていた。



「キラ・・・?」



微かにキラの嗚咽を感じ、その顔を見ようとしたが、キラは首を振り、さらにアスランにしがみついてくる。

その様子に、アスランは自分の体勢を変え、キラが楽なように気遣いながら抱き寄せた。



「キラ、ごめん。

 俺が・・・」



キラから離れたことを悔やみながら、腕の中のキラに話しかけたアスランだったが、それをイザークの怒鳴り声が遮る。



「アスラン、そいつを・・・っ!」



アスランが肩越しに振り返ると、イザークが怒りに目を光らせてアスランを睨んでいた。

そのままアスランに向かってこようとするのを、その傍らでディアッカが抑えている。



「落ち着け、イザーク。

 こんなところで」

「どうしたんです、イザーク?

 あなたのナチュラル嫌いは知っていますけど。

 女性に暴力を働くようなことも、嫌いですよね?」



いくら敵軍の人間でも、こと女性である限り、こんなことは起こらないとニコルは考えていたのだ。



確かに、僕も彼女を好ましくは思わなかったですけど。

それは彼女自身や地球軍ということじゃないですし。



ニコルはただ、少しばかりキラに嫉妬のような感情を持っている。

ニコルの慕うアスランが、キラに対してのみ見せる様子で。

だから、イザークがこんな行動をするほど、キラを憎むような事態は予想していなかった。

またそれと同時に。



「アスラン、あなたもです。

 やりすぎではありませんか?」



アスランに続いて医務室を出たニコル。

彼が見たのは、アスランがイザークを殴り飛ばそうとするところから。

狭い通路のことで、イザークは受け身をとれずに壁に体を打ち付けられた。



「キラに手を出すのは、許さない。

 たとえ仲間でも、だ」



ニコルに答えるように、だがイザークと睨み合ったままのアスランが言うのに、ニコルはため息を吐く。

そして、唯一冷静に話せそうなディアッカに話しを振った。



「いったい、何があったんですか?」

「それが・・・、俺にもよくわからん」



誤魔化すつもりもなく、しかしディアッカは首を横に振る。



「俺がキラと話していたら、イザークが突然怒り出してな」

「何の話を?」

「いや、まぁ、なぁ。

 キラが”足つき”から降りなかった理由を訊いただけだったんだけどな。

 降りるに降られなかったのは、俺達のせいだって言い出したんだよ」

「それで、イザークが?」

「ああ。

 最初は、イザークも別にそんな様子じゃなかったんだ。

 お前が医務室に入った後。

 ちょっと転けそうになったのを助けてやったりして。

 それが・・・」

「黙れ、ディアッカ。

 手を放せ」



ディアッカがニコルと話しているうちに、イザークも落ち着いてきたのか、力ずくで彼の手を振り切ろうとはしなくなっていた。



「もう暴れるなよ?」



それでも一応、念を押して、ディアッカはイザークから離れる。

その様子を見ながら、ニコルは睨み合う二人に言った。



「とにかく、話をしましょう。

 場所を変えませんか?」



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