キラ Ver.B−10


キラは女の子


「カガリ・・・」



建物から出たストライクのモニターに、柵に縫い止められたカガリの姿が映っている。

彼女を見つめ、キラは唇を噛んだ。



怒ってる、よね・・・?



「キラ、お別れを言って行け」

「ううん。

 アスランの怪我が心配だもの。

 ・・・顔色が悪いわ」

「だが、もう会えないかもしれない。

 今言っておかなければ、後悔するかもしれないよ」

「後悔なんて・・・っ」

「俺は、後悔したよ」

「・・・え?」

「キラを置いてプラントに行った時。

 ただお別れを言っただけだったこと。

 キラがプラントに来るって信じ込んで、それで済ませてしまったこと」



アスランは、レバーを握るキラの手に触れる。



「俺は、あの時言うべきだったと。

 その機会を逃がすべきではなかったと。

 ずっと後悔していた」

「アスラン・・・」

「キラは、お別れを言うべきだ。

 それと、今の気持ちを伝えるべきだろう?」



穏やかに話していたアスランが、そこで小さく笑った。



「まぁ、こうしてキラを連れて行く俺が言うことじゃないかもしれないけどな」

「・・・そうね。

 せめて、自分の口で言うべきね」



カガリと話すと決めたキラは、怪我をしているアスランを気遣いながらも、ストライクを素早くカガリの傍に跪かせる。

コックピットを開き、身を乗り出した。

既にストライクに気づいていたカガリが、キラを仰ぎ見て、2人の目が合う。

と、通信が入った。



『何している、行くぞ!』

「待ってっ。

 少し・・・少しだけでいいですからっ」

『怪我人がいるんだそ!』

「わかってます。

 一言だけ・・・っ」



怪我人、と言われて振り返ると、大丈夫、とアスランが微笑む。

ありがとう、と小さく返し、キラは飛び降りた。



「ごめんね、カガリ」

「・・・」



返事をせずに顔を逸らすカガリ。



アスランの言うとおりよ。

これで最後かもしれないの。

ちゃんと、言わなくちゃ。



挫けそうな気持ちを抑えて、キラは早口で続ける。



「アスランとは幼なじみで、私の一番好きな人なの。

 地球軍とか、ザフトとか。

 オーブも、私にはどうでも良かった。

 ただ、友達が、みんなが死ぬかもしれないのはイヤだったの。

 だから、諦めたの。

 ・・・諦めたつもりだったの。

 でも、ダメ。

 アスランが怪我をしたのを見たら、ダメなの。

 もう、アスランとは戦えないわ。

 戦えない私は、アークエンジェルには必要無い。

 逆に、足手まといになるかもしれない」



キラはそこまで言って、口を噤み、俯いた。

暫し沈黙した後、今度はゆっくりと話し出す。



「・・・というのは、言い分けね。

 ごめん。

 私には、アスランが一番大切なの。

 ずっと、ずっと戦ってきて。

 それでも忘れられなくて。

 ちょっとだけでいいから、もう一度アスランの傍に居たいの。

 死ぬ前に」

「死って、お前!?」



気になる一言に、思わずキラを見たカガリは、微笑むキラを見た。

どこか寂しそうに、微笑むキラを。



「ああ、病気とか怪我とかじゃないわ。

 私、もうアスランと本気で戦うなんて出来ないから。

 今度、戦闘があれば、私は多分生き残れない。

 ・・・アスランには見抜かれちゃったけど。

 ザフト軍に行っても、私は敵軍の兵士だから。

 私の手は、彼らの命をいくつも奪っているわ。

 どうなるかなんて、予想がつくでしょう?

 でも、それでも」

「キラ・・・」

「ありがとう、カガリ。

 あなたに会えて良かった。

 でなければ、ここまで来ることも出来なかったと思う。

 こんな裏切り、許してとは言えないけど。

 みんなにも、ありがとうと伝えてくれると嬉しい」



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