キラ Ver.B−8


キラは女の子


「・・・アスラン、動ける?」



向けられた銃への恐怖を押し隠し、キラはイザークの後ろに立つアスランに歩み寄った。

アスランは、先ほどよりも顔色が悪い。

何も言わず、ただキラを見つめていた。

キラの目には、やっと立っているように見える。



迷っている場合じゃない。

怖がっている場合でもない。

アスランの怪我は、出血が酷い。

安全な場所へ行かないと。



キラは、そう自分に言い聞かせることで、なんとか気持ちを整理しようとする。

ここまで、そしてこの先も守っていくはずの友人達への、裏切り。

そして、・・・キラを敵と見なす相手のもとへ行く、恐怖。



「貴様!?」

「静かにしてください。

 また、人が来たら困ります。

 話は後でも出来るでしょう?」



怒鳴るイザークへ、キラは静かに返す。



そう、考えることも後で出来るわ。



ぐっと詰まるイザークを横目に、キラはアスランを支える体勢をとった。



「アスラン、こっちへ。

 ・・・イザークさんと言いましたよね。

 あなたも、ついてきてください。

 起動可能なモビルスーツがありますから」



歩き出したキラとアスランの背を、イザークは睨む。

が、頭を一つ振り、表情を改めて2人に歩み寄った。



「・・・・・・・・・代われ」

「は?」

「代われと言っている」



強引にキラと体を入れ替え、イザークはアスランを半ば抱えるようにする。



「俺が運んだ方が早い」



***



「このアストレイが使えます」



言いながらイザークへと目を向けると、彼は隣に横たわるストライクを睨み付けていた。



「ストライクは、私がアスランを乗せて行きます」



上へ、と告げ、反論されぬうちに、キラは先にストライクのコックピットへと乗り込む。

一歩遅れて、アスランがイザークに支えられ、キラの座るシートの横に降りた。



「アスラン、まだ平気?」



楽な姿勢をとったアスランは、問いかけてくるキラに微笑み返す。

狭いコックピットの中で、2人の顔は触れんばかりの距離にあった。

不意をつかれたキラは、顔に血を上らせる。



「ア、ア、ア、アスラン?」



アスランはそっと、キラの頬に口づけた。



「大丈夫だよ。

 キラが一緒に来てくれるんだから」

「じゃなくて、怪我!」



青白い顔で、それでも微笑んでくるアスランに、キラは照れながらも焦れる。

だが、さらに口を開こうとしたキラを遮り、アスランはイザークを見上げた。



「イザーク、行ってくれ。

 こっちは、問題無い」

「・・・・・・・・・そのようだな」



キラの様子を警戒して見ていたイザークは、2人のやりとりに、疲れたように答える。

すぐに身を翻そうとするイザークを、キラが呼び止めた。



「人を、傷つけないようにしてくださいませんか?

 物も出来れば壊さないで欲しいんです。

 これは、協力する条件です」

「・・・」

「アスランを見捨てて、逃げますか?

 しませんよね。

 あなた1人では、モビルスーツは一機。

 アスランを含めて4人も乗って行けないでしょう?」



キラは必死に言い募る。

声が震えないようにするのは無理だった。

キラ自身、無茶を言っているのはわかっている。

それでも、言わずにはいられなかった。



平和の国なんて、幻想かもしれない。

でも、戦いなんて、知らずに済めばその方がいい。

こんなことになったのは、私が・・・。

私がすぐアスランを振りきれなかったから。

こんなことで、傷付く人が居ちゃいけない。



しかし縋るように見つめるキラに、イザークはあっさりと背を向ける。

キラはそれを見て、慌ててコックピットから頭を出した。



「返事は!?」

「任務が果たせれば、別にいい」

「・・・ありがとう!」



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