キラ Ver.B−4


キラは女の子


「カガリが気に病む必要は無いの。

 ね?」

「キ・・・」

「キラ」



カガリに話ながら、すっと引いたキラの手首は力の抜けていたアスランの手から外れる。

だがアスランは、素早くその手のひらを握った。



「泣くほど辛いことを続ける必要は無いんだ」

「ダ・・・、ダメよ」



顔を向けずに首を振るキラだったが、手を引かれて、ついアスランを見た。

そして、アスランの行動に顔を赤くし、咄嗟に手を引こうとする。



「ア、アスラン!?」



アスランはキラの手を口元に寄せ、その指に口づけていた。



「死なせたくない」

「し、死なないわっ。

 みんなを、守るんだもんっ」

「無理だ」

「今までだって・・・」

「もう、無理だろう。

 君はもう、限界だ。

 そんな精神状態で、俺に勝てるか?」

「・・・っ!」

「俺を殺せるか?

 それとも・・・」



アスランの科白とその眼差しに、キラが怯えたように震える。

言い返せないキラは、首を小さく振っていた。



「それとも、俺に殺して欲しいのか?」



アスランに、殺される?

アスランが、私を殺す?



びくっと硬直したキラは、否定したくても出来ない自分に気づく。



・・・そう。

そうかもしれない。

私は、アスランに終わらせて欲しいのかもしれない。

だって、私はもう戻れないんだもの。

昔の私には戻れない。

私はこの手で、いくつもの・・・



***



「アスラン、時間切れですよ」



目を彷徨わせるキラの答えを待つアスランに、ニコルが緊迫した声を発した。

ニコルだけではない。

イザークとディアッカも、緊張感を漂わせていた。

はっとして周囲に気を配り、アスランは舌打ちをする。



「囲まれた、か?」

「いや、まだだな」

「だが、やばそうな気配だ」

「早く引き上げないとまずいですね」



小声で確認しあう彼らに、カガリが眉を寄せた。



「お前ら、何を・・・うっ」

「黙って、カガリ」



声を上げようとしたカガリの口を、キラが素早く塞ぐ。

片手をアスランに取られているので、口元に当てるのがやっとだったが、カガリはキラの意図どおりに口を噤んだ。



「車は?」

「無理ですね。

 はち合わせしますよ」



長時間、同じ場所にいたのが良くなかったのだろう。

不審がられたらしく、遠巻きにではあるが、彼らは監視されていた。

その原因は、明らかにアスランの行動にあったが、彼らは誰一人としてそれを口にしない。

今が、そんな場合では無いことをわかっているからだ。

アスランとキラを、引き離すことも出来たのに、傍観していた自分達の責も自覚している。



「いっそ、この柵を乗り越えるか?」

「おい、イザーク。

 中に入ってどうするんだよ。

 んなことしたら、撃たれて終わりだろ?」

「どちらにしても、今さら騒ぎを起こさずにというのは、な。

 そんな余地は無いだろう?」

「イザーク!?」



言いながら唇の端を上げるイザークは、成り行きを楽しんでいるとしか思えなかった。

ニコルが咎めるように声を上げるが、イザークはフンッと鼻で笑う。



「手っ取り早くて、結構だろうが。

 もう騒ぎになりかけている。

 躊躇っている場合じゃ、ないだろう?」

「イザ・・・」

「そうだな」

「アスラン!?」



あなたまで何を言い出すんですか!?と声を抑えながらも叫ぶニコル。

しかし、誰か止めて欲しいと見回しても、残るディアッカもニヤニヤと笑っているのだった。



「いいんじゃないか、それならそれで。

 逃げ回るのは、趣味じゃ無いからなぁ」

「ディアッカまで・・・」



ニコルは肩を落とし、ため息を吐いたのだった。



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