キラ ver.A−1 TV本編28話より


キラは女の子
「キラ 序章」の続きの場面から


「君、の?」

「うん」



アスランから差し出された、トリィ。

そして、その他人行儀な言葉。

それが、キラに自分とアスラン、そしてアスランの背後の3人の立場を思い出させた。



彼らに、気づかれちゃいけない。



「ありが、とう・・・」



アスランはキラを庇っている。

それに気づいたキラは、応えるべく、ぎこちなく言葉を紡いだ。

キラの手に、トリィが飛び移ってくる。



アスラン・・・



話したいことはいっぱいあった。

けれど、ここで声を掛けては、アスランの厚意を無にする。

アスランと見つめ合いながら、キラは懸命に自制しようとした。

しかし・・・

アスランが仲間から呼びかけられてキラに背を向けた時。



「・・・アスラン!」



キラの理性が崩れた。

キラは柵にしがみついて、アスランの名を呼んでしまう。



「待って、アスラン!

 行かないで!」



***



後ろ髪を引かれながらもキラに背を向けたアスランは、キラの必死の声にぴたりと足を止めた。

同僚達が、自分を訝しげに見ているのはわかっていたが、既に誤魔化せることではない。

キラ自ら、アスランの名を知っていることを。

キラとアスランが知り合いであることを明かしてしまっていた。

それも、たった今、他人を装っていたにも関わらず。



「・・・キラ!?」



振り向いたアスランが見たのは、柵を両手で掴み、涙をぽろぽろと零すキラの姿だった。

キラの泣き顔は、アスランの理性を崩すのには十分に過ぎる。

もう、いまさら取り繕うつもりにはなれなかった。



***



「なんで、泣く?」



アスランは柵越しに手を伸ばし、キラの頬に触れてくる。



「だっ、だって・・・っ!」



間近に寄せられた翠の瞳とその優しい声に、キラはしゃくりあげながら話し出した。

もう、キラの目にはアスランしか映らない。



「ア、アスラン、が。

 行っちゃう。

 や、やっと、会えた、のに。

 イヤ、なのに。

 も、もう。

 イヤなのっ」

「キラ・・・」



キラは自分でもきちんと話せていないことはわかっていたが、止まらなかった。



「なんで、こんなことっ。

 こんな・・・。

 アスランは、そっちにいるのに。

 私は、ここにいなくちゃいけないの?

 どうして?

 なんで?」

「おい、キラ!?」



力が抜けたキラが崩れ落ちるように、地に座り込む。

視線を合わせるようにかがみ込んだアスランを見て、キラは放心したように続けた。



「私、なにしてるんだろ?」



アスランは敵なのに。

変だよね。



くすくすとキラは笑いだす。



「こんなの、今さらだよね。

 自分で、選んだんだもん。

 自分で・・・」



なんで、言えるだろう。

助けて、なんて。

それもアスランに。



「ほんと、バカよね」



俯いて呟いたキラに、アスランが手を触れた。

顔を上げたキラは、そこに微笑みを浮かべたアスランを見て、目を瞬かせる。



「おいで」

「え?」

「こっちに、おいで」

「・・・え?」

「そこは、キラには辛いんだろう?

 だったら、俺と来ればいい」

「で、も・・・」

「大丈夫。

 キラは何も心配しなくていい。

 全部、俺が代わってあげる」

「あ・・・」

「キラはずっと頑張ってきたんだ。

 もう、十分だろう。

 もういいんだよ」

「ほん、とに・・・?」

「ああ。

 俺と来る?」

「いいの?

 迷惑じゃない?」

「なんでだい?

 俺が来て欲しいんだよ?」

「あ・・・」

「来るね?」

「・・・うんっ。

 ここ、もうイヤ。

 アスランと離れてるのも、イヤ」

「じゃあ、出ておいで」

「うん、待っていてね!」



アスランが差し出してくれたハンカチで、キラは顔を拭った。

立ち上がり、満面の笑顔をアスランに向ける。

と、その手をアスランが掴んだ。



「気をつけて」

「あ、・・・うん。

 あっちのゲートから、出るね」

「待ってる」



歩き出したキラは、ふと振り返る。

こちらを見ているアスランと目が合い、小さく手を振った。

それに応えてくれるアスランを確認し、もう一度歩き始める。



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