キラ 序章 TV本編28話(の直前)から | ||
キラは女の子 あの場面までのお話 |
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「だから私達は、あれをもっと強くしたいの。 あなたのストライクのようにね」 エリカ・シモンズがキラを振り向いて、言った。 「技術協力をお願いしたいのは、あれのサポートシステムのOS開発」 期待を込めて話すエリカは気づかない。 キラの顔が、一瞬痛そうに顰められたことを・・・。 *** アークエンジェルの乗員を匿うこと。 そしてアークエンジェルやストライクの修理。 中立国オーブがその見返りに望んだのは、ストライクの戦闘データ。 そして、キラの技術協力だった。 それを艦長のマリューから説明され、キラはもちろん承諾した。 だって、それ以外にどうしようもないじゃない? 今の彼らに、オーブの領海外で待ち受けるサフト軍に対抗する力は無い。 キラはみんなを守りたくて、頑張ってきた。 心が痛みを訴えても、それが自分で決めたことだから。 できることを、する。 そう、キラ自身が決めたから。 あと少し。 アラスカへたどり着けば。 そうすれば、私の役目は終わるわ。 *** モルゲンレーテの技術者達の見守る前で、M1アストレイは抜群の機動を見せていた。 『・・・すごい!』 パイロットの声は、感嘆と喜びとに満ちている。 そろりそろりとしか動けなかったのは、つい昨日のこと。 それが、彼女の思い通りに動くのだ。 これで嬉しくないはずもない。 「新しい量子サブ・ルーチンを構築して・・・」 キラは新しいそのOSの説明を淡々と続けるが、技術者達の耳には届いていなかった。 皆、昨日までは考えられない動きをするモビルスーツに見入っている。 さすがに主任のエリカだけは、キラが説明を終えると口を開いた。 「よくそんなこと、この短時間で。 すごいわね、ほんと」 嬉しそうなエリカに対し、キラは無表情にキーボードを叩き続ける。 「俺が乗っても、あれくらい動くってこと?」 興味深げに見ていたフラガは、エリカに声を掛けた。 「ええ、そうですわ、少佐。 お試しになります?」 本来機密であり、外部の人間を乗せるなどあってはならないはずなのだが、エリカは気軽く誘いかける。 と、その時キラが小さくため息を吐いた。 気づいたのは、ちょうど振り向いていたフラガだけ。 フラガはキラが浮かない顔をしているのに目を止め、眉を寄せた。 *** 守るために、力が要る。 それはキラがずっと感じていたことだ。 だから、オーブがこうして軍事力を増強する必要があることもわかっている。 けれど。 平和の国。 でも、ほんとにこの国は、平和って言えるの? こうしてここに居たって、私のすることは変わらないじゃない。 ストライクも、アークエンジェルも。 みんな、オーブ製なのに。 皆が、キラを褒める。 アークエンジェルで。 ここ、オーブでも。 褒められたくてやってるんじゃない。 褒めて、欲しくなんか無い。 なんで、戦争に荷担して褒められるの? ただ、死にたくなくて、死なせたくなくて。 それだけだったのに。 *** 「なぁ、キラ」 「なんですか?」 2人きりになって、フラガがキラに問いかけた。 「君こそ、その不機嫌面はなんですか?」 「そんな顔、してません」 「してますって」 昨日今日、会ったばかりエリカ達は気づかなくても、さすがにフラガの目は誤魔化せない。 作り笑いをしていたキラを、フラガはずっと心配して見ていたのだ。 「家族との面会も、断ったって言うじゃないか」 答えたくなくて、キラは無視して足を進める。 しかしそんな無言の訴えを聞き入れるフラガではなかった。 「どうして・・・、キラ」 「今、会ったって・・・。 私、軍人ですから」 やっと重い口を開いたキラだったが、ストライクの整備をしていたマードックに遮られた。 システムはキラに一任されているので、変更に対応させていくのもキラなのだ。 キラは身軽くストライクに乗り込む。 手慣れた仕草で起動させ、キーボードを叩き始めた。 フラガは横たわったストライクのコックピットに座るキラを見下ろす。 「軍人でも、お前はお前だろうが。 ご両親、会いたがっているぞ、きっと」 私だって、会いたい。 会いたくない、わけがないわ。 だけど、会えないの。 「こんなことばっかりやってます、私。 モビルスーツで戦って。 その開発やメンテナンス手伝って。 ・・・できるから」 「キラ・・・」 「オーブから出れば、すぐまたザフトとの戦いになる」 アスランとの。 また、アスランと戦わなくちゃいけない。 きっと。 「いや、それは・・・」 「今会うと、言っちゃいそうでイヤなんです」 「なにを?」 キラの手が、止まった。 しばしの沈黙の後、キラは震える声で答える。 「なんで、私をコーディネイターにしたの、って」 コーディネイターでさえなければ。 キラが戦うことは無かっただろう。 少なくとも、ストライクを操縦できたはずもなく。 皆の命を、その肩に負うことも無かった。 アスランと、敵にならなくても済んだのに! 「・・・キラ」 涙を堪えきれなくなったキラは、両手で顔を覆って泣き出した。 コーディネイターじゃなかったら、アスランと出逢えなかったけど。 そしたら、こんな思いをすることもなかったわ。 どっちが良かったかなんて、わからない。 わからない、けど・・・っ。 「会いたいよ、アスラン・・・。 もう、戦いたくない・・・」 「キラ、大丈夫か?」 思わず呟いたキラだったが、フラガの声に我に返る。 大急ぎで涙を拭い、フラガを見上げた。 「な、なんでも無いです」 「って・・・」 「すみませんが、一人にしてくれませんか?」 赤い目をしているキラに、フラガは躊躇いながらも従うことにする。 「思い詰めるなよ?」 「ええ、大丈夫です」 *** 一人きりになったキラは、体の力を抜いた。 落ち着こうと思ったのだが、その目から、また涙が零れる。 アスラン、助けて。 いつまで、こんなことしてればいいの? 今のキラにとって、アラスカは遠かった。 第一、その前にアスランが立ちふさがっている。 アスラン、もう来ないで。 お願いよ。 トリィ 「え?」 それまでキラの肩で大人しくしていたトリィが鳴いた。 不意に聞こえたその声に、キラがトリィを見る。 トリィ 「ちょっと、トリィ!?」 翼を広げたトリィが飛び立った。 慌てて立ち上がるキラの目に、今まさに工場から飛び出そうとするトリィが映る。 「ダメよ、トリィ! 戻ってきて!」 キラは叫ぶように呼びかけた。 だが、既に姿の見えないトリィに届くはずもない。 「やだ、なんで!?」 アスランからもらったこの鳥は、今まで自分でキラから離れることなど無かった。 そのトリィが、キラから遠ざかる。 「トリィ、待って!」 キラはストライクの上に出て、工場内を素早く見回した。 そしてトリィが出たところに一番近いと思われる出入り口を確認し、走り出す。 *** 未明にオーブに侵入してから、情報を集めていたザフト軍の4人。 アスラン、イザーク、ディアッカ、ニコルは、柵の向こうを見やった。 「軍港より警戒が厳しいな」 イザークが言う。 それは、4人全員が思っていたことだ。 夕刻の今、まるで進展がない。 柵を越える手段が見つからなかった。 「チェックシステムの撹乱は?」 「何重にもなっていて、結構時間がかかりそうだ。 通れる人間を捕まえた方が、早いかもしれない」 オーブとのトラブルはまずいんだがな・・・。 しかし時間が無いことも確かで、やはり多少の強硬手段もやむを得ないかと、アスランも思う。 「まさに、羊の皮を被った狼ですね」 ニコルが、オーブという国の二面性をそう表現した。 *** トリィ 考え込んだアスランの耳に、不意に聞こえてきた、音。 危険を告げるものではない、微かな音。 その証拠に、彼の横に立つ同僚たちは何の反応も起こしていない。 しかしアスランは顔を上げた。 その瞳が見開かれる。 「あれ、は・・・」 小さく呟いたアスランの視線の先にあるもの。 アスランの気を惹いたその音を発するものは、空を飛んでいる鳥。 緑色の、鳥。 見覚えのある・・・ トリィ トリィ 鳥はアスランの頭上を旋回しながら舞い降りてくる。 まさか、と思いながらも、アスランは組んでいた腕を解き、ゆっくりと上に上げた。 トリィ パサッと翼を仰がせたそれは、差し出された手の上に、留まる。 小首をかしげながら囀るその鳥は、アスランが手を下げても飛び立とうとはしなかった。 まるで、そこが自分の目的地であったというように。 「んん?」 「なんだそりゃ?」 「へぇ、ロボット鳥だ」 アスランの手の上を見て、同僚たちが声を掛けてくる。 しかしアスランは、ある予感に気を取られ、聞いていなかった。 いや、違う。 アスランの頭の中は、ある人物のことでいっぱいになってしまっていた。 これは、俺がキラのために作った。 三年前の、別れの日に渡した。 涙に目を潤ませたキラの手に。 それが、今ここにある。 トリィ 恐る恐る視線を柵の向こう、鳥の飛んで来た方へと向けたアスランの目に、建物から駆けだしてきた人影が見えた。 アスランは、息を呑む。 想像し得なかった事態だ。 正確には、予想し得る事態でもありながら、アスランが敢えて考えることを避けていた事態。 ザフト兵として仲間達といるアスランが、地球軍のキラと会えばどうなるか。 どうする? 自問するアスランが見つめる先で、キラは頭上を見回しながら近づいてくる・・・。 *** 「トリィーっ!」 建物の外は、夕陽に朱く染まっていた。 キラはその朱い空へと呼びかけながら、見回す。 「あぁ、もう。 どこいっちゃったの!?」 焦りに呟いたキラは、ふと視線を正面に降ろした。 そこには、侵入を防ぐための高い柵がある。 その柵を挟んで、あちら側に4つの人影。 「あ・・・」 一歩前に出た1人に視線が吸い寄せられたキラは、やがて驚愕に目を見開いた。 アスラン・・・? なんで・・・? 本物・・・? 本物だ。 キラがアスランを見間違えるわけがない。 キラはアスランへと歩を進め始めた。 ゆっくりと。 ***end |
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ほとんど本編そのままですね・・・ | ||
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