望み−30


キラは女の子


「私、ほんと考えが足りないよね」



部屋から出ないようにアスランが言い置いて行った後。

アスランを見送る笑顔を消して、ため息を吐きながらベットに腰掛けた。

そして、キラは今までのことを思う。



「モルゲンレーテの工場で・・・」



作業服の地球軍と、パイロットスーツのザフト軍が撃ち合っていたのよね?

で、地球軍の女の人が、私を安全なところへ連れて行ってくれると言った。

私はキャットウォークから飛び降りて、ストライクの上に。

女の人が撃たれて駆け寄ったら、ザフト兵も来て。

・・・アスランだって、思った。

実際そうだったと今では知ってるけど。

あの時点では、確信は無くて。

・・・だってアスランが軍に入ってるなんて思わないもん。



「それで、ストライクにミゲルさんのジンが攻撃してきた・・・」



ストライクは稚拙なシステムで、思うように動かなくて。

足下の逃げ遅れた人達を今にも踏みそうになったから。

つい、あの人を押しのけて、私が・・・



「ストライクで、ジンを」



その時を思い出し、キラはブルッと震えた。



よく、あんなことができたよね。

二度と、やれないと思うし、やりたくない。

その後、ミゲルさんがジンを自爆させて。

衝撃で私は気を失った。

目が覚めたら、ミゲルさんがいたんだ。



「銃を向けられて、ちょっと怖かったけど」



誘われて、迷った。

でも、アスランに会いたいと思った。

別人の可能性の方が高いと思いながら。

だけど私がアスランを見間違えるなんて、と。



「ほんと、バカ。

 わかっているつもりで、わかってなかった。

 あの時点で、私は何よりもアスランと会うことを選んだ。

 だから、忘れてたんだわ」



ガモフ艦に来て、イザークさんやディアッカさんとも会って。

みんな優しくしてくれた。

甘えさせてくれた。

みんな、軍人だって。

モビルスーツが、兵器だって。

わかっているつもりだった。

なのに、ミゲルさんが私の所為で苦労してるのを見て。

お手伝いさせてもらった。

役に立つのが、嬉しかった。



「それが、戦争に荷担することだと、自覚してなかったんだ」



そして、アスランと再会できて。

アスランの傍に居られることで舞い上がっちゃったんだ。

隊長さんが出した協力要請を、考えもせず承諾して。



「あの後、アスラン達が変な顔してたはずよね。

 みんなは、わかってたんだ。

 私が、どんなに軽い気持ちで受けたのか」



くっと、キラは自嘲するように笑う。

だがすぐに顔を歪め、目に涙を滲ませた。



「ミゲルさんは、守るために戦うと言ってた。

 じゃあ、私は?」



私は、戦争が嫌いだって言ってきた。

今だって、好きじゃない。

でも、前みたいに戦う人達を嫌うことはできない。

そして、私はもう関わってしまった。

今さら、無かったことにはできないんだ。



「決めなくちゃ。

 私は、どうしたい?」



アスランと、いたい。

離れたくない。

だからって、そんな理由で戦争していいわけない。



「じゃあ、ヘリオポリスへ帰る?」



このままなら、いつかそうなる。

帰りたくないわけじゃない。

父さん達が心配しているだろう。

研究室で別れたきりの、友人達も。



「だけど今、別れたら。

 戦争が終わるまで、アスランと会えなくなる。

 ミゲルさんたちとも」



それどころか、戦場に身を置く彼らに万一のことがあっても。

それを知ることはできない。

キラがヘリオポリスで平和を甘受している時。

みんなが危険に身を晒している。



「そんなのは、イヤ」



ここにいる人達は、プラントにいる家族や恋人や、友人達を守ってる。

なら、私は、ここにいる私の大切な人を。

なにより、アスランを守りたい。

私にできることには限りがあるけど。



「父さん、母さん、ごめん」



*** next

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