望み−29


キラは女の子


『アスラン・ザラ、ニコル・アマルフィ。

 至急、艦橋へ。

 繰り返す・・・』



突然響き渡った艦内放送に、キラへと伸ばされたアスランの手が止まる。

キラも、はっとして顔を上げた。

アスランとニコルが目を見交わす。



「隊長がガモフから戻ったらしいな」

「アスランは、先にキラさんを部屋へ」

隊長には僕が。



「そうさせてもらう。

 行こう、キラ」

「あ、だってアスラン・・・」



宙に浮いたままの手を動かし、ためらう素振りを見せるキラの腰を抱き、強引に床を蹴った。

ニコルもそれに続く。



「アスラン、私一人でも平気だから。

 だから、ニコルさんと行って」

「駄目だ」

「だけど・・・」

「キラさん、アスランに連れて行ってもらってください」



***



「アスラン・ザラ、入ります」



艦橋には既に、隊長のクルーゼと、アスラン以外のGパイロットが揃っていた。



「遅れて申し訳ありません、隊長」

「いい。ニコルから聞いた。

 彼女は大丈夫かね?」

「・・・はい」



ためらいの残るアスランの返事に、クルーゼはじっとアスランを見る。

だがそれを追求することなく、話を始めた。



「”足つき”を捕捉した。

 デブリ帯から、月へと向かう航路をとっている」

「アルテミスではないのですか?」



アスランは先ほどこの艦橋で、ニコルはそのアスランから聞いている。

しかし、ガモフにいた3人は、情報を得る暇が無かったのだろう。

ミゲルが代表して、疑問を口にした。



「寄ったのか、寄っていないのかは不明だ。

 それに現在、その航路をとっている以上、どちらでも変わりはないな。

 問題は、地球軍の月艦隊がこちらに向かっているということだ」

「合流、しようとしていると?」

「だろうな」



”足つき”を、その月艦隊と接触させてはならない。

それは、ここにいる全員が承知していた。

ならば、合流前に自分達は”足つき”を墜とすのだ。



「ニコル。

 ブリッツの調整は済んだか?」

「キラさんの作業は終了したそうです。

 最終の微調整も済みましたので・・・

 一度、僕自身の確認を行えば、完了です」

「それでは、この後最優先で」

「はっ」



ニコルの返事に、というかキラの仕事ぶりに満足したクルーゼは、仮面に隠れぬ口元に笑みを刻む。



「Gの性能を確認するいい機会だ。

 5機で、”足つき”を。

 ヴェサリウスとガモフは、後方支援とする。

 ミゲル」

「はっ」

「作戦は、君に任せよう」

「はっ」



***



「とは言うものの・・・」



ヴェサリウスの艦橋を出て、ミゲルは他の4人を見回し、ため息を吐いた。



「お前ら、頼むから、協力し合ってくれよ。

 って言ってるそばから、どこへ行くんだ、アスラン?」



なにやら考え込んでいるようだったアスランが、不意に立ち去ろうとするのを、手を伸ばしたミゲルがその腕を掴む。



「キラと話をしなくちゃいけないんです」

「キラに?なにを?」

「そうですね、その方がいいと思います」

「ニコルまで、何を言い出すんだ?」

「キラは、わかってなかったんです」



眉を寄せたミゲルに、アスランが口を開く。



「キラは、モビルスーツが兵器であるという事実の認識が薄かったんです。

 ですから・・・」

「俺達がそれで戦闘をすれば、傷付く、か・・・」

「ええ」

「黙っていればいいだろう?」



暗い顔で話す彼らに、ディアッカがあっけらかんと口をはさんだ。

しかしそれには、ニコルがすぐに首を振る。



「キラさんは、もう知っていますから。

 それに今誤魔化しても、いずれは知れることですよ」

「その通りだな。

 アスラン、だがキラの所へ行くのは、後にしろ」

「・・・わかりました」



今のキラを一人にしておくことは気がかりだったが、アスランはミゲルに従った。



*** next

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