望み−28


キラは女の子


「せん、とう・・・?」

「ああ」



戦闘になる、と言ったアスランの言葉を、キラは呆然と繰り返す。

馴染みの薄いそれに、キラはどう反応してよいかわからなかった。

対してニコルは、アスランと同様厳しい顔になる。



「アスラン。

 ”足つき”が見つかったのですか?」

「そうだ。

 ちょうど俺が、艦橋と通話中にな」

「では、やはりアルテミスに向かっていたんですか」

隊長の読みはさすがですよね。



「いや、少し違うかもしれない」

「え?ですけど・・・」



戸惑うニコルに、アスランも頷き、艦橋で聞いてきた話を続けた。



「”足つき”は確かにアルテミスに寄ったらしい。

 しかし、俺達の予想より早く着いて、今は別の方角へ飛んでいる。

 あの新造艦は、足が速いようだな」

「傘から、出てきたんですか?

 僕達が追っていることに、まるで気づいていないと?」

「いくらなんでも、そんなことはないと思うんだがな」

「・・・ですよね」



アスランとニコルが話ている間に、やっと考えることのできたキラは、2人の会話がとぎれたのを幸い、気になることを訊こうと口を開く。



「アスラン?

 戦闘って、戦うのよね?

 誰と誰が?

 ”足つき”って?

 アルテミスとか、傘って何の話?」



矢継ぎ早に問いかけてくるキラに、アスランが振り向いた。

不安な顔をしたキラを見て、アスランが微笑んでみせる。



「ああ、ごめん、キラ。

 キラに聞かせることじゃなかった。

 大丈夫。

 キラのいるこの艦は安全だからね」

「・・・じゃあ、なくて!

 ねぇ、戦うの?

 また、壊すの?

 ・・・また、人が死ぬかもしれないの?」



キラの脳裏に、ヘリオポリスで見た光景が甦っていた。

撃たれた人が、倒れるのを。

街が壊れていくのを。

キラはこの目で見ている。

あれが、繰り返されるのだろうか?



「キラ、部屋に戻ろう」

「待ってよ、アスラン」



笑みを崩さないままのアスランがキラに伸ばした手を、キラは振り払った。



「ねぇ、教えてよ、アスラン。

 アスランだって、危ないことするんでしょう?」

「キラ、聞き分けを・・・」

「アスラン、気持ちはわかりますが。

 こんな話を聞いたキラさんに説明しないのは、余計に不安がらせますよ」



口をはさんだニコルに、アスランは迷うような、キラは感謝の眼差しを向ける。



「ニコル・・・」

「ニコルさん。

 そうよ、アスラン。

 教えてもらえなくちゃ、私・・・」

「しかし、キラ。

 これは君とは関わりのないことなんだから」

「アスラン、それは違うでしょう?

 今のキラさんは、関係者です」

「ニコル、しかし・・・っ」

「あなたが心配なさっていることがわからないではありませんけど。

 だからといって、キラさんに話さないのは良いこととは思えません。

 ・・・隠すことは、良い結果を生みません」

わかっているのでしょう?



そう諭すニコルを、アスランは意外の目で見た。

思えば、初対面からニコルはアスランに対していつも、兄のように慕っている様子であった。

ニコルの尊敬はアスランに向けられ、それがアスランより年上のイザークやディアッカには気に入らないのだろうと思ったくらいだ。

追従、とは違う。

しかし、ニコルがアスランの意見に反対を述べるのを、アスランは初めて聞いた。



「ニコル・・・

 そう、そうだな」



アスランは、ニコルをまじまじと見て、肩の力を抜く。

そして、キラをじっと見つめた。

キラは、ちょっと不思議そうにアスランとニコルとを見比べている。



「私が関係者って?」

「・・・やっぱり、気づいてないみたいだね、キラ」



気遣わしげにキラを見ながら、アスランは困ったように呟いた。

確かに、気づかせたくないとは思ったけれど。

ニコルの言うとおり、実際に戦闘に入ってしまえば。

さすがに、鈍いキラだとて。



「キラ、君が乗ったモビルスーツというものが何なのか、わかってる?」

「モビルスーツ?

 何って・・・、あ」



兵器。

人の命を奪うためのもの。



キラは口元に手を当てた。



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