望み−27


キラは女の子


「あれ、キラさん?」

「あ・・・、ニコルさん」



一昨日、アスランのイージスでの作業が済んだ。

そして先ほどニコルのブリッツの調整も済み、手の空いたキラは、アスランが戻るのを格納庫近くの通路で待っている。

キラが一人で佇んでいると、ニコルが声を掛けてきた。



「まさか、今まで作業をしていたんですか?」

「いえ、あの・・・」



口を濁すキラに答えを見つけ、ニコルは顔を曇らせる。



「無理しないでくださいね」

「大丈夫です。

 ちょっと調子が出なくて、時間が掛かっていただけなんで」



アスランってば、もういいって言ってるのに、ずっと付き添ってくれるんだもん。

嬉しいけど、集中しづらいったら。



「ニコルさんのが遅れてしまってすみません。

 あれでいいと思うので、後で確認してくださいね」

「わかりました、もう終わったんですね。

 ありがとうございます。

 ・・・あれ?アスランは一緒じゃないんですか?」

キラさんを一人にするはずないですよね。



「あ、アスランは・・・」



キラは微かに頬を染めながら、すっと視線を逸らした。



「艦橋へ行きました」

すぐ戻るって。



そんなキラの様子をじっ見つめるニコル。

そのまま沈黙が続いてしまい、気詰まりになったキラが視線を戻すと、ニコルと目が合った。



「あの、なにか?」

「キラさんが羨ましいなと思って」

「え?」



意外な言葉に、キラは首を傾げる。



「何がですか?」

「僕には、できませんでしたから」

「・・・?」

「アスラン、この前、怒っていたでしょう?」

あんなことしたら、ね。



「あ!そうでした。

 すみません、ニコルさんにもご心配をお掛けしたんですよね。

 もう、絶対やりませんから」

「そうしてください。

 あ、いえ、そういう話ではなくてですね」



言いながら、ニコルは先ほどのキラと同様に、窓の外へと顔を向けた。

キラはその横顔を見つめる。



「僕は、あんな風に取り乱したアスランは初めて見たんです。

 すごかったですよ。

 ブリッツを乗っ取られそうになりましたから」

かえってキラさんが危険になるからと、やっと止めましたけどね。



「それと、あの人があんなに楽しそうに笑うのも、初めてです。

 戦場で笑う事なんて、もともとそんなにないですけど。

 アカデミーでも、見たこと無かったんです。

 ああ、笑顔が無いってわけじゃないんですよ。

 ただ・・・

 何て言えばいいかな?

 僕らとの間に、幕が張ってあるみたいで。

 あまり、感情を見せなかったです」



ニコルはふぅ、と息を吐き、一瞬、キラをちらっと見た。



「それが、キラさん相手だと、ああでしょう。

 ちょっと残念ですよね。

 これでも、僕は彼の近くにいると思っていたんです。

 だから、相談してもらえないことが、寂しかった」



しばし口を噤むニコルを、キラも黙って待つ。



「ヘリオポリスでの作戦の後なんですが。

 珍しく、アスランが何が考え込んでいました。

 今思えば、キラさんと再会した所為だったんですね」

ただ、確信が持てなくて、動きが取れずに。



「なんて、こんなことキラさんに言うことじゃなかったですね」

「ニコルさん、アスランのこと・・・」

「尊敬してますよ。

 万事に、優秀な人ですから。

 もちろん、今でもです」



くすっと笑い、ニコルはキラに向き直った。



「かなり、イメージが違いましたけど。

 僕は、今の彼の方がいいと思います」

ま、ちょっと行き過ぎな感もありますが・・・



「さぁ、お迎えが来ましたよ、キラさん」

「え・・・、あ」



ニコルが指さす方を見ると、アスランがこちらへ向かってくる。



「キラ、ニコル」

「アスラン、キラさんを一人にするのは良くないですよ」

「ああ、すまない。

 ちょっと艦長に呼ばれてな」



厳しい顔つきのアスランに、キラが不安な目を向けた。



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