望み−26


キラは女の子


「アスランってば、何考えてるのっ」



来たときとは反対に、今度はキラがアスランを引っ張っている。

格納庫へ向かいながらキラが喚くが、アスランはクスッと笑いながら答えた。



「キラのこと」

「・・・っ」



アスラン、変わってないと思ったら、変わってるしっ。

もう、もう、もうっ。

仕事中だってわかっててっっっ。



心の中で叫びながら、しかしキラは嬉しそうに笑みを刻んでいる。

自分でもその自覚があるので、アスランを振り向いたりしないが。



やっぱりミゲルさん達、アスランのこと誤解してるよね。

イザークさんもディアッカさんも、アスランは品行方正って感じで言ってたもん。

・・・まぁ、ちょっと口調が変だったけど。

きっと気が合わないのね・・・って、そうじゃなくて。



「隊長さんがここに居させてくれるんだから。

 私も、約束守んなくちゃダメでしょ?」

「まぁ、確かにね。

 でもかなり出来たんだろう?」

「おおよそ、ね。

 それに、アスランのイージスはともかく・・・

 ニコルさんの機体もやんなくちゃでしょ?」



でもまず、アスランのを完璧にしなくちゃね。

・・・やっぱり、アスランがまた負けたりしたら、イヤだもんね。



***



「キラ、今日はもう終わりにしないか?」

「んー、あとちょっと」



相変わらずミスタッチが多く、思いのほか進まない。

先ほどからアスランに注意されても、キラは止めようとしなかった。



「アスラン。

 そこに居られると、気になるんだけど・・・」



キーボードを叩きながら、キラは横目にアスランを睨んだ。

モビルスーツのコックピットに、2人は狭い。

だいたい、華奢な少女であるキラならともかく。

細身に見えても鍛えられた体を持つアスランが横に立っているのは、かなり圧迫感がある。

もちろん、キラが気になっているのはその狭さというわけではないのだけれど。

得意なプログラミングの作業中に、こんなに気が散るのは初めてだった。



さっきみたいに、前から覗き込まれていた方がまだ良かったかも・・・。



声を掛ければ、一緒にモニターを見て意見を言ってくれる。

しかし、キラがそれに添ってプログラムを書き換えている間、アスランは・・・



「ア、アスラン!?」



キラの髪を梳いていたアスランの手が、首筋を撫で、キラが震えた。

キラの手が、止まる。



「気にしないで、作業を続けて。

 仕事、したいんだろ?

 俺は暇なんでね」



アスランに髪を触られるのは、気持ちがいい。

でも、こんな近くから一方的に見つめられてると思うと、なにやら恥ずかしい。

だけど、アスランといるのは嬉しい。

でもやっぱり、ドキドキするのは止まらない。

その上、こんなことをされては。



「・・・アスラン」

「なんだい、キラ?」

「・・・アスラン」

「うん、キラ」



耳元で優しく名を囁かれ、キラがまた震えた。



「寒いの、キラ?」

「う、ううん」

「そう?」



な、なんで?

か、体が、そわそわっていうか、ぞわぞわっていうか・・・。



自分でも顔が火照っているのを感じる。

とてもじゃないが、もうキラは集中できなかった。



「ア、アスラン。

 きょ、今日は、ここまでにするね」

「そう、そうだね。

 キラの好きにしていいよ」

「う、うん」



キラはピョンと立ち上がり、あっという間にコックピットハッチの上に出る。

これ以上アスランに触れられていると、なんだかおかしくなりそうで怖かったのだ。



ほんとは、システム切らなくちゃいけないけど・・・



「アスラン、あとよろしくね」



言い置くと、後ろも見ずにキラはイージスを蹴って飛び出した。

残されたアスランは、くすくすと笑いながら、シートに座る。



「まったく、世話の焼ける・・・」



困ったように言いながら、しかしアスランの顔には笑みが浮かんでいた。



*** next

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