望み−23


キラは女の子


「あの、あのね・・・

 システムはだいたい出来たよ。

 あとは、アスラン自身が乗ってみてからの調整で・・・」



腕を掴んでいるその力に、キラはアスランの怒りを感じた。

艦内をアスランに引かれながら、アスランに話しかける。

だが、アスランはまるで聞こえていないように、返事をしてくれなかった。

イージスを降りた後、アスランは一度もキラを振り向いてくれない。



「・・・いいと、思う、ん、だけど」



最初は、努めて明るい声を出していたキラだった。

しかし、こうも反応が返されないと、さすがに声が震えてくる。



「アスラン、ねぇ・・・」



ちょっとは怒られるだろうな、とは思ってたんだけど。

こんなに、なんて・・・



視線も向けず、声も発しないアスランに、キラは涙が込み上げてきた。

顔を歪ませ、目元を滲ませる。

それでも、唇を噛んで、懸命に泣くのを堪えた。



こんな、怒ったの、初めて。



キラが悪いことをすると、アスランはもちろん怒る。

けれど、キラが反省すれば、すぐに元通りに笑いかけてくれた。

こんな風に、口も聞いてくれないことなど一度もない。



なんで、そんなに怒るの?



アスランを騙すようにして、キラは宇宙に出た。

それは確かに、良くないこと。

しかし、それでアスランがこんなに怒るのが、キラにはわからなかった。

口に出して聞きたかったが、今のアスランが答えてくれるとは思えない。



泣いちゃ、ダメ。



ここは通路で、人の行き来があった。

こんなところでキラが泣き出せば、アスランがどう思われるかと、キラは涙を堪える。

もっとも、既にすれ違う人々は、不審の目を2人に向けてはいた。

厳しい顔つきのエリートパイロットが、私服姿の目を潤ませた少女を引っ張っていく。

それが一目を惹かないわけもないのだが、キラは気づかない。

2人を見て、それでも放っておくのは、キラが嫌がっていないことがわかるからだった。

キラは自覚していないようだが、泣きそうな顔でアスランを縋るように見ている。

それに、幼少の頃からの友人だと、艦内に知れ渡っているということもあった。



ここ、は・・・?



やがて、アスランは居住区の一室の前に止まる。

扉が開き、キラはそのまま部屋へと連れ込まれた。



アスランの、部屋?



辺りを見回したキラは、しかしよく見る前に、腕を強く引かれて突き放される。



「きゃ・・・っ、な、何?」



勢いで躓き倒れ込んだところがベットだと認識する前に、浮かび上がりそうになる体を止めようと手近な物に掴まった。

ふぅ、と息を吐き、はっとしてアスランを振り仰ぐ。



「アスラン・・・」



やっと正面から見ることの叶ったアスランの顔は、しかしキラの予想とは違い、苦しそうだった。

どう見ても、怒っているというのとは違う。



「アスラン、あの、怒ってるんじゃないの?」



怒られると身構えていたキラは、なぜか辛そうなアスランに、慌てて訊ねた。

だがアスランは何も言わず、表情も変えない。

代わりに足を動かし、キラの乗るベットへ膝を乗り上げた。



「アスラ・・・!?」



驚いたキラがアスランの名前を呼びきる前に、キラはアスランに抱きかかえられる。

そしてそのまま、ベットへ転がった。



アスラン、なんで?



アスランの肩に顎を乗せるような体勢のキラには、アスランの顔は見えない。

しかし、押しつけられたアスランの体が、微かに震えていることに気づいた。



どうしたの、アスラン?



よくわからないながらも、キラは自由になる両腕を、アスランの背へとまわす。

腕に力を込め、抱きつくようにした。

不思議と、キラはいつものようにドキドキしたりしない。

手を握られるだけで、動揺していたのが嘘のようだ。



「アスラン?」

「キラ・・・っ!」



そっと呼びかけたキラに、今度はアスランは答える。

声と同時に、アスランの抱きしめる力が強まった。



「キラ、あんなこと、二度としないでくれっ!」

「え?

 あ、うん、ごめんなさい、勝手なことして」

「違う!

 違う、そうじゃない。

 そんなことを言っているんじゃない。

 キラは、自分が何をしたか、わかっているのか?」

「何って・・・」



アスランの許可無く、勝手にイージスを動かしたことだよね?

違う、の?



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