望み−16


キラは女の子


「ア、ア、ア、アスラン!?」



突然抱きしめられ、驚きで涙が止まったキラは、一気に顔に血が上った。

顔をアスランの胸に埋めながら、どうしていいかわからない。

それでもなんとか呼びかけるが、アスランは何も言わずに、腕に力が込められただけだった。

少し苦しいほどのその力に、だがキラはずっと抱えていた不安が消えていくのを感じる。



ああ、アスランだ・・・



キラの知るアスランが成長し、大人へと近づいたアスラン。

昔の彼とはまるで体格が違う。



昔は、同じくらいだったのにね。

今は、私をすっぽりと抱え込めるくらい・・・



そこまで考えて、キラはさらに赤面した。

好きな人の腕の中にいる。

キラの背にまわされたその腕の力は、アスランのキラとの再会の喜びを表しているのだろうと思う。

それは、嬉しい。

とても、とても嬉しいのだが・・・



やだ、ちょっと待って。

こ、ここって、人がいっぱいいたよね?

ミゲルさんたちも見てるんじゃない!



「アスラン、あの、は、放して!」



我に返ってしまったキラは、アスランから離れようと腕を突っ張ろうとするが、まるで果たせず、アスランに懸命に呼びかけた。

しかし。



「嫌だ」

「い、イヤって・・・

 ア、アスラン、ここ、どこだか憶えてる!?」

「そんなことは、関係ない」

「そんなこと、って・・・」



アスランの胸で、キラは途方に暮れてしまった。



***



アスランの行いに、全員すっかり固まっている。

ミゲル、イザーク、ディアッカは、アスランとキラの過去を聞いているので、それなりに想像してはいた。

確かに、してはいたのだが。



まさか、こんなアスランが見られるとは思わなかった。

こいつ、ほんとにアスラン・ザラか?



口をあんぐりと開け、唖然としている。

そんな中、一番最初に自分を取り戻したのは、ニコルだった。



「あの、誰、なんですか?」



ニコルは、キラについて全く聞いていない。

そんな彼が、この事態についていけるわけがなかった。

その戸惑いを含んだ疑問に、ミゲルもはっと我に返る。



「そ、そうだな。

 ニコルは初めて会うんだよな」

「初めてというか、まだ会えてないですけど・・・」



そう、見たことは見たけれど。

すぐにアスランに隠されてしまった。



「キラ・ヤマト。

 ヘリオポリスの学生で、アスランの幼なじみ。

 そう、報告を受けているが・・・」



そう答えたのは、たった今入室してきた隊長のクルーゼである。

ミゲルとニコルはさっと姿勢を正し、敬礼をした。

イザークとディアッカも、その声を聞き、反射的に敬礼をする。

ひとり、アスランだけがそのままだ。



「アスラン、おいっ」

「ちょっと、アスラン!?」



焦ったミゲルとニコルが小声で呼びかけるが、反応しない。

キラをしっかりと抱きしめたままだ。

どうしたものか、とミゲルがクルーゼを窺うと、その口元が笑みを刻んでいる。



「どうやら、そればかりでもないらしいな」



キ、キラ、まずいぞ。



その、楽しそうな口調に、思わずキラの身を案じてしまうミゲルだった。

クルーゼはとても頼りになる上官だが、ミゲルは知っている。

彼は、人の悪いところがあるのだ。



ミゲルの視線の先に、アスランに抱きしめられたキラがいる。

彼らの声に、再びキラは逃れようと藻掻いていた。

終いには、唯一自由な足もばたつかせている。



「放してって、言ってるでしょうが!」



その一振りが、効いたのか、やっとアスランの腕が解かれた。

藻掻いたせいか、恥ずかしいのか、キラはすっかり真っ赤になっている。

だが、こちらに背を向けているアスランの顔は見えなかった。



「キラは、嬉しくないのか?」

「そ、それは・・・っ」

「俺は、とても嬉しい。

 キラは違うの?」

「う・・・、嬉しいわよ!」



自棄になったように大声で叫んだキラを、再びアスランが抱きしめる。



・・・こいつら。



心配するのが、馬鹿らしくなったミゲルだった。



*** next

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