望み−12


キラは女の子


「どうですか、イザークさん?」



ガモフの艦橋から、キラはスクリーンに映るモビルスーツの動きを見つめていた。

キラの横にはディアッカもいる。

心配そうに通信機に向かうキラに、イザークと、そしてミゲルからの返信が返った。



「動きやすい」

「ああ。

 これの性能を十分に引き出しているようだな」



デュエルとストライクが、模擬戦闘を行っている。

キラにより改良されたOSのテストだった。

2人からの返事に、キラが笑顔になる。



「よかったぁ」

「やるじゃないか、キラ」



そのキラの頭を、ディアッカがわしゃわしゃと撫で回した。



「あ、ちょっと、・・・もう、痛いですよ、ディアッカさんっ」



文句を言いながらその手から逃れたキラは、しかし嬉しそうな顔を崩さない。



いいな、こういうの・・・



アスランと別れてから、キラは甘やかしてくれる手をずっと望んでいた。

この歳で、と人には言われるかも知れない。

だが、両親を含めキラの周りはみんなナチュラルばかりだった。

コーディネイターとして、とても優秀なアスランを知ってるキラは自分もそうである自覚は少ない。

それでも、同年代のナチュラルである友人達に比べ、いろいろな面においてキラは抜きん出ていた。

どんなに親しくしても、キラを一段上に見ている。

口には出さないし、対等な友人付き合いだった。

だが、キラが甘えられる相手はいない。

両親は好きだ。

でもそれこそ、この歳で親にばかり甘えていられない。

だからこそ、兄が欲しかったなと思うこともあった。



アスランがいたときは、そんなこと全く考えたことないのにね。



もちろんそれは、アスランが常にキラの傍にいたから。

考えたこと、思ったこと。

その全てをそのまま話せる相手が、キラの傍らに在ったから。

それが当たり前だった日々。



甘えたくて、アスランに会いたいわけじゃないけどっ。

・・・やっぱり甘えたいのもほんとだけど。



こうして今、ミゲル達3人に囲まれて、キラは甘やかされている。

それは、もう、キラ自身が赤面するくらいには。



なんか、物凄く子供扱いだけどね。



甘えたいなら、これで十分満たされているだろう。

それでも、アスランに会いたいと思う。



好きなんだもん・・・



「・・・っと、あれ?」



ハッと我に返ると、スクリーンにはもうただの宇宙空間しか映っていなかった。



「おいキラ、どうした、行くぞ!」



ディアッカの声に振り向くと、彼はもう艦橋から出かけている。

それを見て、まだこの後、2人の機体の調整が残っていたのを思い出した。



「あ、待ってよっ」



***



毎日出入りするうちに、キラも格納庫内の移動に慣れた。

安全を確認し、まずはデュエルへと向かう。

着いたそこでは、既にコックピットが開かれ、イザークが出てくるところだった。



「お疲れさま、イザークさん」

「ああ、お前もな。

 昨日とは別物だぞ、これは」

「んー、やっぱり自分で動かしてみないとわかりませんよね」



ストライクよりもデュエルの動きが今ひとつだった昨日、キラは無理を言って操縦させてもらったのだ。

反対されたが、イザークと同乗という条件でなんとか許してもらった。



「やったな、イザーク。

 ミゲルに勝つなんてな」

「ふん。あれはあいつの専用機とは違うからな。

 慣れない機体のミゲルに勝手も、な」



そう言いながら、しかしイザークは明らかに嬉しそうである。

それへ、ディアッカはさらに付け加えた。



「これで、明日は勝てるんじゃないか?」

「明日って、明日なにかあるんですか?」

「ヴェサリウスに乗ってる俺らの同僚と模擬戦闘やるんだよ。

 言ってなかったか?」

「・・・同僚?」

「おうっ。ま、あまり気は合わないが・・・」



キラがこの艦に乗り、既に数日が経っているが、もう一隻の話題は今まで出ていない。



同僚・・・、パイロット?

あの時の、人?

アスランに見えた・・・?



「そりゃあ、お前らがあの2人を嫌ってるだけだろう・・・」



疲れたようなミゲルの言葉を聞きながら、キラは瞳を曇らせた。



*** next

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