望み−10


キラは女の子


「ミゲル、少しは休憩しろ」

「ああ」



イザークの呼びかけに答えたミゲルは、しかし作業を中断しようとはしない。

ストライクのコックピットに座ったまま、顔を上げようともしなかった。

どうやら、何を言われたかわかっていないようである。

それを見て取ったイザークは顔を顰めた。



「進展してないようだな・・・」



イザークの肩越しに見るキラの視線の先で、ミゲルは小さく舌打ちをしている。

音から判断すると、キーボードを叩きながら、エラーを繰り返しているようだった。

初めて見る、ミゲルの苛立たしそうな様子に、キラはイザークにそっと訊く。



「ミゲルさんは、なにしてるんですか?」

「こいつのOSの書き換えだ」



って、それって、・・・私がやったやつのことだよね?

まずいこと、したっけ???



「あ、あの。OSがおかしいんですか?」

「いや。

 5体のうち、これだけOSがちゃんとしているんでな。

 こいつのを解析して、汎用性を高めようとしているだけだ」



よ、よかったぁ。

ダメなわけじゃないんだ。

でも・・・



「汎用性、ですか?」

「他の4体にも載せるためにな」

「ああ、そうなんですか」



でも、いいのかな?

私のプログラムって、いつもアスランに呆れられてたんだけど。

作るの早いし動作も速いけど、わかりづらいって。

もしかして、ミゲルの作業が進まないのって、やっぱり私の所為よね・・・



別にそうと確認したわけでもないのに、キラの中ではもう確定。

キラはちょっと不安気にミゲルに近寄った。

今の2人の会話も聞こえていないらしく、相変わらず彼はエラー音と舌打ちとを繰り返している。

もちろん、キラがここにいることにも気づいていなかった。



優秀なアスランでも、私のプログラムをいじるの嫌だっていってたものね。

・・・アスランの方がミゲルさんより優秀って言ってるわけじゃないけど。

ミゲルさんはパイロットだもん。



間近に見たミゲルは、怖いほど真剣な顔をしている。

それが自分の所為かと思うと、キラは落ち込んだ。



私がやれば、たぶんミゲルさんに苦労させることはないけど。

そのためには、あの時、このモビルスーツを操縦していたのが私だと話さないといけない。

ミゲルさんにジンを自爆させた原因が、私だって。



ミゲルに嫌われる(かもしれない)と口を噤む自分がイヤで。

なんとか誤魔化せないかと考える自分がイヤで。



キラは涙をこぼし始めてしまう。



「ちょっ、・・・おい、キラ!?」



キラの様子が変だと気づいたディアッカが、その涙を見て慌てて声を上げる。

と、やっとミゲルが顔を起こした。



「キラ?

 どうした、なにを泣いてるんだ?」



さすがにキラの泣き顔に驚いたミゲルは、作業を中断して立ち上がる。



「こいつらに、何か言われたか?」

「ミゲル!俺達は何もしてないって!」



濡れ衣を着せられては堪らないと、ディアッカが力一杯否定した。

キラも緩く首を振る仕草をする。



「どうした?

 ・・・寂しくなったか?」

「ちがうの・・・」



心配そうに訊ねてくるミゲルに、キラは小さく答えた。



「あの、あのね・・・。

 私、ミゲルさんに謝らないといけないの」

「俺に?キラが?」

「・・・うん」



頷くようにしたまま、俯いてしまったキラに、ミゲルは困惑した顔を向ける。



「ほんとは、最初に言わなくちゃいけなかったんだけど」

「なんだい?」

「お、怒らないでほしいんだけど」

「ああ」



口を開いてみては閉じるキラに、ミゲルは苦笑した。



ほんとに、年相応に見えないな・・・



「言ってごらん。

 怒ったり、嫌ったりしないから」

「・・・あの、私の所為なの。

 ミゲルさん達の、邪魔をしたの。

 ごめんなさい」

「・・・・・・・・・キラ?

 それじゃあ、わからな・・・」

「ミゲルさんのジンを壊したの、私なの!」



意を決したキラは、目を閉じ、ミゲルの言葉を遮った。



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