望み−4


キラは女の子


「見えてきたぞ」

「・・・あれが?」



ミゲルの声に、キラは我に返ってモニターを見た。

そこには二隻の艦が浮いている。



ザフト軍の、艦・・・



宇宙に出てから、キラはひとり考え込んでいた。

あの時見たのが、アスランだったら?と。



戦争を嫌っていた彼が、軍にいるはずない。

だけど、私がアスランを見間違える?

でも、ヘルメット被ってたから、はっきり見たわけじゃない。



あれが本当にアスランだったら、あのどちらかの艦にいるかもしれない。

しかしそれは、キラの知っているままのアスランではないかもしれない。

会いたくて、でも違うアスランなら会いたくない。

キラの心は複雑だった。

コーディネイターを嫌う地球軍のところに行くのがイヤで、ミゲルの誘いに乗った。

しかし、違ったのかも知れないと、キラは自分を振り返る。



ほんとは、アスランに会いたいだけかも・・・?



「ほんとに、私を連れて行って、大丈夫ですか?

 ミゲルさんが困ることになったりは?」

「大丈夫だ・・・、たぶん」

「た、たぶん!?」



自信がなさそうに言うミゲルに、キラはぎょっとした。

だが、ミゲルを見ると、その顔は笑いを堪えているように見える。



「ミゲルさん!?」

「冗談、冗談。

 だって、お前コーディネイターだろ。

 平気だよ」

「そう、ですか?」

「そう、そう。

 そういや、キラはずっとヘリオポリスにいたのか?」

「いえ、前は月にいました」

「プラントは?」

「行ったことはありません。

 私は一世代目のコーディネイターなので・・・」



語尾を濁すキラだが、ミゲルにも言いたいことが通じた。



親は、ナチュラルということか。

それで、中立国に移ったんだろう。



「それなら、知らないのも無理ないな。

 俺達コーディネイターは仲間意識が強いんだ。

 絶対数が少ないからね」



だがそうすると、あいつらにはあまり会わせない方がいいかな?



ミゲルが思い浮かべたのは、紅を着る2人の後輩パイロットのこと。

これから向かう艦・ガモフに所属する彼らは、ナチュラルを嫌っている。

いっそ馬鹿にしているとも言える。

キラの前で、いつものようにしゃべられては、彼女が傷付くだろう。



だからって、ヴェサリウスに連れて行くと・・・



仮面をつけた隊長・クルーゼと、突然対面させては、キラが怯えそうだ。

ミゲルはクルーゼを尊敬しているが、それとこれとは別。



あの人も、結構人が悪いから。



「軍艦だから、居心地はあまり保証できないけどな。

 安全は保証するし、みんな女子供には優しいよ」



あいつら・・・イザークとディアッカも、それは確かだろう。

失言しないとも限らないのが問題だが。

だがいろんな意味でも、キラが女で良かったかもしれない、とミゲルは思った。



「しばらく、辛抱してくれな」

「そんな、辛抱だなんて・・・」



キラは困惑しながら、首を振る。



無理矢理、連れて来られたわけではない。

それに、短い時間しか経ってはいないが、キラはミゲルが気に入っていた。



ミゲルって、お兄さんみたい・・・。

月では、アスランがいつもいつも、私の傍にいてくれた。

兄妹のように。

そう、自分では思っていたけど。



離れてから、キラは自分のアスランに対する想いが違うことに気づいた。

それは、兄を慕うような気持ちではない。

キラの母が、保護者のようにキラを叱る様子に、2人を兄妹のようだと笑っていた。

それでキラも、そう思いこんでいただけ。



アスランはいつだって頼りになったけど。

アスランが隣にいると、とっても安心したけど。

ミゲルさんは、それとは違う安心感があるから。



「ミゲルさんみたいなお兄さんがいたら良かったな」

「なんだ、突然?」

「私、一人っ子でね、幼なじみと離されて寂しかったんだ。

 お兄さんがいたら、少しは過ごしやすかったかなって。

 ミゲルさんは兄弟、います?」

「弟が一人いるよ。

 妹はいないから、キラ、お前がなるか?」



笑いながらの言葉に、キラも顔を綻ばせた。



「じゃあ、お兄ちゃんって呼ぼうかな」



*** next

Top
Novel


Counter