望み−3


キラは女の子


「どうしてこうなっちゃったんだろう・・・?」



キラの口から、ため息と共に小さな呟きが漏れた。

すぐ横にいるミゲルは耳ざとくキラを振り向く。



「あん?何か、言ったか?」

「あ、いえ・・・」

「遠慮するな。

 言いたいことや訊きたいことがあったら、言えよ。

 ガキが気を遣うな。

 それとも、傷が痛むか?」



キラは今、ストライクのコックピットにいる。

もちろん、操縦しているわけではない。

シートにはミゲルが座っている。

キラはその横に立っていた。

・・・最初に乗り込んだ時のように。



「あ、あの、その・・・。

 あの女の人、大丈夫かな、って思って」

「気になるか?」

「・・・私を助けてくれようとした人ですから」

「そうだな。

 軍人にしちゃ、情に流されやすい感じだった。

 まぁ、平気だろうよ。

 ちゃんと訓練されている軍人は、非常時に強いんだ。

 お前は、人の心配より、自分のことだけ考えてな」

「・・・はい」



狭いコックピットの中、キラの目は自然とモニターへと向く。

そこに写し出される光景に、キラは唇を噛み締めた。



街が壊されている・・・。

父さんと母さんは無事だろうか?



ストライクは、ほどなくして、コロニーを出ていく。

地表が見えなくなり、キラは無意識に入っていた体の力を抜いた。



今、悩んだって、仕方がない。

結論は、出ないんだから。



自分に言い聞かせ、キラは前向きに考えようと思う。



それより気になるのは、あの人。

あれは、アスランだったんだろうか?



「おーい、ボーッとしてるなよ」

「・・・え?あ、はい」



無重力のため、キラが自分で掴まっていないと、ミゲルの視界を塞ぎそうになる。

考え事に夢中になると、危険だった。



ミゲルに声を掛けられて、すぐに我に返ったキラだが、その顔には憂いが残る。

それを横目に見ながら、ミゲルは言いたかったことを口にした。



「悪かったな、お前の住む街をあんなにしちまって」

「・・・・・・・・・いえ。

 あなた個人が、悪いわけではないから」

「そう言ってもらえるのはありがたいな」

「あなたが・・・」

「ミゲル」

「え?」

「ミゲルって呼んでいいよ」

「あ、と、えと・・・。

 ミゲルさんがいい人なのは、この短い時間でもわかりました。

 さっきの女性も、たぶんいい人なんだと思ったし。

 ・・・私、軍人って、もっと怖いんだと思っていました」



キラの言うことを黙って聞いていたミゲルは、おもしろそうにキラを見る。



「戦争をする人達は、戦うのが好きなのかとも」

「んなわけ、ないだろ?」

「・・・ええ。そうなんですよね。

 軍人だからって、私と違うわけじゃない」

「俺達は、戦争のために戦ってやしない。

 戦争を終わらせるために戦ってるのさ。

 知ってるか?

 俺達ザフト軍兵士のほとんどは、志願兵なんだ。

 みんな、守りたいものがあるから、戦う。

 大切なものを奪われないためには、戦争に負けることはできない。

 地球軍に、これ以上戦力を与えるわけにはいかない。

 このモビルスーツは、地球軍の新兵器なんだ。

 その情報を得て、俺達は作戦行動を起こした。

 結果は・・・。

 目的は達したが、コロニーへの被害は思った以上だった」

「なんで、ここに地球軍の兵器があったんです?」

中立国なのに・・・。



当然の疑問をキラは口にした。

答えは知っている気がしたが、できれば否定して欲しい。

そう思うキラに、ミゲルははっきりと言った。



「モルゲンレーテが、地球軍に協力したんだ。

 おそらくは、地球軍の技術をものにするために。

 中立が聞いて呆れる」



ミゲルの答えに、キラは俯く。



平和だって、思っていたのに。

中立国は、戦争になんか荷担しないって思っていたのに。

私がずっと平和だと感じていたのは、間違っていたのかな?

平和は、遠ざかる一方なのかな?

・・・早く、終わればいいのに。



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