偽りの平和 TV本編第1話より


マリューがアスランに撃たれたところから


「大丈夫ですか!?」



キラの目の前で女性が銃弾に倒れ、思わずキラは駆け寄った。

状況は不明だったが、この場所では銃撃戦が行われている。

そして、彼女もそれに参加しており、おそらくは軍人だろうとキラも思っていた。

しかしキラは、ずっと平和な国で暮らしてきている。

今まさに撃たれた人間に近寄ることが、自分自身を危険に晒す行為でもあることに考えが及ばなかった。

・・・いや、違う。

気づかなかったわけではないが、怪我人を目の前にして、咄嗟に体が動いてしまったのだ。



彼女の脇に屈み、助け起こそうとしたその時、ふと近づく気配にそちらを向く。

そのキラの目に、ナイフを振りかざした紅い人物が映った。

と、キラの脳裏に昔の光景が甦る。

仲の良かった、幼なじみ。

月で別れた、親友。



「・・・アスラン?」



思わず呟いた彼の名前。

そんな場合ではないのに、アスランを思い出させたその相手を、じっと見つめた。



***



「くっ!」



弾詰まりを起こした銃を捨て、ナイフを構えたアスランは、地球軍の兵士へと近づいた。

傷を負い、倒れ臥したその兵士の横に、小柄な人影がある。

華奢で、明らかに戦闘員ではないことを一瞬で判断したアスランは、そちらにはほとんど意識を払わなかった。

しかし、ナイフを振りかぶったその時、その相手から名を呼ばれた気がして、アスランの動きは止まる。

すっと流れた視線の先に、一人の少年がいた。

茶色の髪に、特徴的な紫色の瞳。



「キラ!?」



三年前から音信の途絶えた、親友。

アスランが心を許せるのは、母を除けば今も昔もキラだけだった。

だからこそ。

父の名を借りてまで、手を尽くした。

それでも、キラの消息を追うことができないでいたのだ。

そのキラが、ここにいた。



***



ヘルメット越しで、相手の顔はよく見えない。

だが、「アスラン」の名に反応し、驚いたようにキラを見ているのがわかった。

そして・・・



「キラ・・・」



キラの記憶に残る、彼の声とは違う。

それでも。



ふらっと立ち上がったキラは、一歩前に出た。

そうすると、光の加減で相手の顔が見える。

藍色の髪、翠の瞳。



「アスラン・・・」



ほんとに、アスランだ。

アスランに間違いない。



幼さは消えているが、キラがアスランを見間違えるはずがない。

さらに近づこうと足を踏み出した瞬間。

視界を塞がれ引き倒された。

同時に響く、銃声。

・・・さらにもう一発。



キラにはなにがなんだかわからない。

アスランを認識してから、キラは周りの状況など完全に失念していたのだ。

そして今、誰かがキラを下敷きにするように倒れている。

もちろん、誰かとは、アスランだ。



「ア、アスラン?

 アスラン、どうしたの!?」



先ほど一瞬、苦しい程の力で抱きしめられた。

だがすぐにその力は抜かれ、今はキラに体重が掛けられている。



声を掛けても返事のないアスランに、キラはその下からゆっくりと抜け出した。

その目に、アスランの背から流れる血が見えた。



あ・・・・・・・・・



「アスラ・・・」

「アスラン、無事か!?」



唇を震わせながらアスランを呼ぶキラの声を遮るように、大きな声が掛かる。

はっとしたキラが振り返ると、先ほどの女性が死んでいた。

そして、近づく紅い影。

キラはちょっとびくっとしたが、アスランと同じ格好をしている。

さきほどの声を発した人物だろう。

アスランの味方に違いない。



「アスランが、撃たれて・・・っ」

「なんだと!?」



近づいてきたその相手、ラスティはアスランの脇に屈み込んだ。

もちろんキラに不審を抱かないではなかったが、私服で涙を浮かべる少年を警戒していられるほど、暇ではなかった。

手早く、アスランの容態を見て取り、手当をしていく。



「あの、アスランは大丈夫ですよね!?」

「ああ。幸い急所は外れている。

 止血が効けば・・・」

「大丈夫だ」

「アスラン!」

「気が付いたか、アスラン。

 どうした、お前らしくないぞ。

 こんな不覚をとるなんて」

「それは、こっちの科白だ。

 ラスティだって、撃たれただろうが」



アスランの目が、ラスティの肩に留まる。



「かすり傷さ。

 ま、失敗に変わりはないけどな、確かに」



肩をすくめて見せながらもラスティは処置を終えた。



「これで、しばらく保つだろう。

 ・・・で、こいつ、誰さ?」

「俺の幼なじみだ。

 キラ、俺は大丈夫だから、落ち着いて」



アスランは、当然の疑問を口にするラスティには簡単に答え、青い顔で自分を見ているキラを宥める。

手を伸ばし、キラの頭を優しく撫でた。

すると、キラは顔をくしゃっと崩し、滲んでいただけの涙が、ぽろぽろと零れ出す。



「ア、アスランが、死んじゃうかと思った・・・」

「キラ・・・」



泣き出したキラの涙が簡単に止まらないことを、アスランはよく知っていた。

だから、痛みを堪えながらゆっくりと起きあがり、キラの頭を自分の胸に抱き寄せる。

キラに、自分の鼓動が聞こえるように。



「ほら、生きているだろう」

「・・・うん」



キラはアスランの両脇から腕をまわし、ぎゅっとしがみついた。

・・・怪我をしたアスランには少し辛かったが、もちろんそんなことは気取らせない。



「アスラン、アスラン、会いたかったよ・・・」

「俺もだよ。ずっと捜していたんだ。

 こんなところで会えると思わなかった」

「僕も」

「おい、アスラン!!!」



再会の感動に浸る2人を、ラスティの大声が現実に引き戻した。



「任務の途中だぞっ。

 私事は、後にしろ!」

「あ、ああ。すまない。

 キラ、ごめん」

「任務って・・・?

 アスラン、何処行くの?」



アスランはキラから離れがたく思いながらも、キラの腕を自分から外す。

自分はザフトの軍人で、アスランにはそれを放棄することなどできなかった。

だが、キラに涙目で下から見つめられると、アスランの決意が鈍る。



「僕も連れて行って!」

「キラ・・・」

「もう、アスランと離れているのイヤだよっ」

「駄目・・・」

「アスラン、いい加減にしろよ。

 面倒だ。そいつ、連れてっちまえ。

 連れて、行きたいんだろう?」



ぐずぐずしているアスランに、ラスティはその本心を感じたのだ。

ラスティの知るアスランは、いつだって冷静沈着。

任務遂行を最優先。

こんな風に任務を忘れることなど、未だかつてない。

ラスティの目にも、アスランがこの少年を大切に想っているのがわかった。

大方、撃たれたのだってそのせいだろうと。



ラスティに背を押され、アスランはキラの気持ちを確かめてみる。



「キラ、ご両親はこのヘリオポリスにいるんだろう?」

「うん」

「俺と来たら、もうご両親とは会えなくなるかもしれない。

 それに、俺が行くのは戦場だ。

 安全を保証できない。

 それでも、俺と来るか?」

「・・・行く。

 ここだって、ほら、安全なんかじゃないよ。

 安全だとしても、僕の知らないところでアスランが危険じゃ意味ない。

 両親には、悪いけど。

 父さんには母さんが、母さんには父さんがいるから。

 僕には、アスランが必要なんだ。

 アスランと会えなくなって、実感した。

 心に、ぽっかりと穴が空いたみたいで。

 ・・・アスランは、僕といたくない?」

「そんなわけが、ないだろう。

 俺が、どんなにキラを捜していたか、知らないだろう。

 父の力まで借りたのに、見つからなくて。

 もしかしたらと、ずっと怖かった。

 キラが俺と来てくれるなら、俺はもうキラを放さない。

 たとえキラが俺を泣いて嫌がる日が来ても。

 絶対にキラを手放したりしない。

 それでも、いいのか?」



真剣な顔で言うアスランに、キラは泣き笑いを浮かべた。



「馬鹿アスラン。

 僕がアスランを嫌いになるわけないだろ。

 僕だって、アスランを放さないよ。

 アスランは、僕のものだもん」

「じゃあ、キラは俺のだな」



アスランはキラを抱き寄せ、顔を寄せていく。

キラも、アスランが何をしようとしているのか気づき、目を閉じた。



そっと、唇が重なる。



「約束だ」

「うん、約束」



微笑みかけるアスランに、キラも顔を赤くしながら微笑んだ。



***end

ラスティが死んでいると、なんでアスランは思ったのだろう・・・?
というわけで、代わりにマリューさんが死亡
マリューさん好きだけど、お持ち帰りの邪魔
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