偽り−1


キラは女の子


「キラ、あなたはほんとうは女の子なの」

「お母さん、僕は男の子でしょ?なんで女の子なの?」



キラは不思議そうに母を見上げて訊いた。



「キラが女の子だってわかると、会えなくなっちゃうの。

 だからね、お父さんとお母さんとキラ、三人だけの秘密。

 誰にも内緒なの」

「アスランにも?」



アスランは、この町に越してきてなったばかりの、友達。

とっても綺麗で、とっても頭がいい。



「アスランにも言っちゃ、ダメ?」

「そうよ。アスラン君にも、内緒」

「・・・」



腕を組み、むむむ、と眉を寄せるキラ。

そんなキラはとても可愛らしい。

幼い我が子を守るために、約束させなくてはならないのに、つい気が緩む。



「キラ、とってもアスラン君が気に入ったのね」

「うんv アスランね、とっても優しいんだよ。

 頭もいいんだ。クラスで一番!

 それでね、特にね、翠の目がとっても綺麗なのv」

「キラの瞳だって、綺麗よ」

「アスランも言ったよ!

 僕の紫色の目が、綺麗だって言ったんだ!」



それはもう嬉しそうに話すキラは、既に先ほど悩んだことは忘れてしまっていた。



「アスラン君のこと、好き?」

「大好き! アスランも僕が大好きだって!」

「良かったわね」

「うんっ!」



母に頭をぽんぽんと撫でて貰って、満面の笑顔を浮かべている。

が、次の言葉で、またしぼんでしまった。



「でもね、アスラン君にも言っちゃダメよ?」

「アスランは、秘密にしてね、って言えば、守ってくれるよ?」

「それでも、ダメ」



幼い子供には、友達に秘密を持つのが辛いのはわかっている。

しかし、学校は今までとは違う。

本人が自覚して隠さなければ、到底隠し切れるわけがなかった。



「お願い、キラ。

 これだけは、聞き分けて頂戴・・・」

「・・・うん」



アスランに内緒にするのはとってもとっても気に入らない。

だが、目の前の母が泣きそうで、そんなことは言えなかった・・・。



***



ずっと性別を隠しとおすのは大変だったけど。

いいこともあったな。

・・・いつもアスランと一緒にいられた。

アスランは人気があったから。

僕が女の子だって他の女の子たちに知られたら、絶対邪魔されたよね。

それにアスランも、妙に真面目だから。

僕の部屋に一緒に寝てくれなかっただろうな、うん。



お別れの時、アスランはロボット鳥を僕にくれた。

ああいうのの得意な彼にだって、作るのは大変だって自分で言ったくせして。

僕はよく泣き虫だって言われたけど、お別れは笑顔で、って我慢してたのにさ。

嬉しくて、悲しくて、結局泣いちゃった。



僕の大親友。

なのに僕は、君を騙していたんだよ。

大好きな、君を。



ねぇ、今更本当のことを言ったら、僕を嫌いになる?



もう、3年も会っていないよね。

今の僕は、女の子だ。

言葉遣いは、直らないけど。

このヘリオポリスに移住してから、女の子として暮らすようになったんだ。

一応、ね。

口調とか服の趣味とか、変わってるね、ってよく言われる。



僕がなぜ男として育てられたのか、なぜここでは女でいいのか。

まだ、聞いていない。

たぶん、何かが起きない限り、父さんも母さんも教えてくれない。

だから、アスランに会えても、説明できないんだ。



君がくれたトリィは、・・・あ、ロボット鳥のことだよ。

トリィって鳴くから。

それで、トリィはね、今も僕の大切な友達なんだ。

大好きなアスランがくれたから、だよ?

トリィを見ると、君を思い出す。

君の姿を見ることも、声を聞くことも出来ないけど。

今でも君は僕の一番大切な友達だ。



君も、僕を憶えていてくれるよね?



***



プラントにいるアスランと、中立国コロニーにいるキラでは。

この戦時下において、互いの安否を確認することすら出来ない。

アスランに至っては、キラがここにいることすら知らないだろう。

戦況は激化するばかり。



しかし彼らは再び巡り逢う・・・



*** next

序章というか
キラの回想による設定説明ですね、これ
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