偽り−39


キラは女の子


「マリューさん」

「キラ君!?」



アークエンジェルのクルーが捕虜となって3日。

突然マリューだけが監禁された部屋から出され、連れてこられた先にはキラが待っていた。

キラと、少年達4人。

キラ以外は真紅の軍服に身を包んでいる。

だが、マリューはキラの姿しか目に入らなかった。



「キラ君、あなたなんでそんな格好・・・?」

「え?・・・ああ。

 着ていた服が破かれてしまったので。

 借りたんです。

 だから、別にザフトに入隊したわけじゃないです」

「いえ、そういうことじゃなくて。 

 スカート、よね?」



もちろん、もうマリューにもキラが女であることが見て取れる。

体にぴったりとした軍服は、キラの女性らしい曲線を浮き立たせていた。



「女の子、だったのね・・・」

「すみません。

 騙しているつもりはなかったんですけど」

「いいえ。気が付かない私達がどうかしていたわね。

 ごめんなさい」



深く頭を下げるマリューに、周りで見ていたアスラン達は肩の力を抜く。

彼女が、キラを傷つけるようなことはしないだろうと思えたので。



「マリューさん。あの、怒ってないんですか?

 僕は、皆さんの邪魔をしたんだけど」



キラは、やや不安そうに訊いた。



キラは実のところ、会った途端に険悪な目と言葉を向けられる覚悟をしていたのだ。

しかし、マリューは目があった瞬間、ほっと安堵したのが見て取れた。

もちろん次には驚きに変わっていたけれど。



「なぜ?

 あなたが気にするようなことではないわ。

 ・・・そうね、驚いたけど。

 でも、あなたに負い目があるのは私達の方よ。

 巻き込んだのは、私。

 戦闘を強制したのも。

 軍人でありながら、民間人を守れなかったのも。

 みんな、私達のせいだわ」

「そんな。

 最初に守ってくれようとしたのは、マリューさんです。

 ちゃんと憶えています」



そう。

戦闘の最中に、見知らぬ子供を助けてくれようとしたのだ。

その後、キラはストライクを操縦することとなり、あの艦の大人がみんな信用できなくなっていた。

今ならわかる気がする。

彼女は、軍人であろうとして、自分の感情を堪えていたのだろう。

キラをストライクで戦場に送り出すことを、きっと彼女は後悔し続けていたに違いない。



「でも、結局助けてもらっていたのは、私達。

 今こうしていられるのも、あなたのお陰よ。

 ありがとう」

「マリューさん・・・」



もう一度、今度はお礼とともにマリューは深く頭を下げた。

礼を言われるとも思っていなかったキラは困惑したようにマリューを見つめる。

やがて、ゆっくりと頭を起こしたマリューは、キラへと微笑んで見せた。



「よかったわ。

 キラ君・・・、じゃないわね。

 キラさんが元気そうで」



元気、というか、顔つきが違うわよね。

今の彼女なら、たとえ男性の服を着ていても、女の子だってわかる気がするわ。

・・・ずっと、辛い思いに耐えさせていたんだわ、私が。



「それで、他の3人も無事?

 一緒に、いるのよね?」



やや心配そうに訊ねるマリューに、キラも慌てて答える。



「あ、はい。

 ミリィもトールもカガリも。

 3人とも元気です。

 ただ、もう一つの艦にいるので・・・」

「そう。・・・よかった」



笑みを深くし、肩の力を抜いたマリュー。

それを見て、キラは心配を掛けていたことに気づいた。



「すみません」

「え?」

「僕達、勝手に抜け出して、心配をお掛けしたんですね」

「そうね。せめて一言欲しかったけど。

 でも、そんな暇、なかったんでしょう?」



戦闘区域を離脱した時には、いつの間にか姿が消えていたのだ。

ストライクとシャトルが無かったので、推測は立てられたが。

それでも。

安全なところへ行けたのか。

ザフト軍に墜とされてはいないかと。

気を揉まないではいられなかった。



「お互いこうして無事に再会できて、本当に良かったわ」

「はいっ!」



キラはマリューに抱きついた。



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