偽り−38 | ||
キラは女の子 | ||
「なんで?なんでさっさと降服しないの?」 「キラ・・・」 キラはアスランとともに、ガモフの艦橋にいた。 スクリーンには、地球軍とザフト軍の戦闘が映し出されている。 キラがこんな乱戦を外から見るのは初めてだ。 それでもわかる。 両軍の戦闘力の差は歴然としていた。 キラの目には、地球軍は勝ち目のない戦いをただ続けている。 いや、それすらあとどれだけ保つことか・・・。 ザフトからは、降服勧告がされている。 なのに、地球軍からの返答はない。 「アークエンジェルは、あの艦はいつ来るの? あの艦なら、僕も役に立てるのに」 「落ち着いて、キラ。 既にこちらに向かっていると確認されているだろう。 ・・・見ていられないなら、退室するか?」 艦が沈んでいくのを見て、キラはアスランの腕にしがみつきながら微かに震えていた。 「平気。平気だから」 「・・・どちらにしても、そろそろモビルスーツに待機する時間だ。 行こう」 *** 「いいかい、無理だと思ったら、逃げるんだ。 俺達のことは気にするんじゃない」 「僕達のことを信じてくださいね」 「素人に助けられるほど落ちぶれちゃいない」 「おいおい、イザーク。 お前は言い方ってもんが・・・。 まあ、キラはできることだけやればいいのさ。 あとは、俺達に任せてくれよ」 ストライクに乗り込んだキラに、アスラン達が念を押すように言ってくる。 無理はするな、危険は避けろ、と。 キラがアークエンジェルを乗っ取るために、ストライクで艦の傍へ。 他のG4機は、そのストライクの援護。 彼らの負担は大きい。 それだけのことをするのは、キラ達の為だ。 もちろん、地球軍の新造戦艦を手に入れることは、ザフトにとっても益となる。 しかし、墜とす方が余程簡単なのだ。 それなのに、みんな協力してくれる。 不機嫌そうな顔ばかりのイザークさえ、この作戦に異論は挟まなかった。 「ありがとう、みんな」 絶対、成功させるよ。 *** 「マリューさん!もう止めて下さいっ!」 死を覚悟したアークエンジェルの艦橋に、キラの声が響く。 「キラ、君・・・?」 「あの艦隊は全滅しました。 もうアークエンジェルしか残っていないんですよ。 これ以上、人を死なせないでください!」 「なんでキラ君が?」 「貴様!やはりザフトの人間だったのか!?」 スクリーンに映るキラの着るパイロットスーツは、ザフト軍のものだ。 それを見取ったナタルが、詰問するように怒鳴ってくる。 「コーディネイターが皆、ザフト軍なわけではありませんよ。 現に、僕はその艦を守って戦っていたでしょう。 ・・・もうその艦は、僕の言うことしか聞きません」 「坊主、おまえがやったのか?」 被弾し、アークエンジェルに帰還していたフラガも艦橋に現れて口をはさんだ。 言わずもがなな科白にキラは答えず、マリューだけを見据える。 呆然とキラを見つめるマリュー・ラミアスを。 「もう、知っている人が戦争で死ぬのはイヤなんです。 降服してください、マリューさん。 いえ、ラミアス艦長。 あなたの預かっている命を、無駄に散らさないために」 *** 「よくやったな、キラ!」 「やっぱりすごいです、キラさんは」 ストライクを出たキラの背を、ディアッカとニコルが軽く叩いていく。 「キラ、お疲れさま」 「失敗、しなかったよね?」 「十分だ。 ・・・よかったな」 「うん」 地球軍のとはいえ、一つの艦隊が全滅したことは、悲しい。 けれど、キラの知る人間達の乗るアークエンジェルが沈まず、本当によかった。 涙ぐみながらも微笑むキラに、アスラン達の緊張も解けていく。 イザークも珍しくキラに近寄り、その頭をポンと叩く。 無言の労いが、キラには嬉しかった。 *** next |
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