偽り−37


キラは女の子


トリィ

「ちょっと、トリィ。

 邪魔しないでよ」

トリィ トリィ

「もうっ、トリィ!」



ストライクのコックピットに座るキラの手元を、トリィが動き回っていて作業がちっとも捗らない。

トリィを捕まえてコックピットから放しても、すぐに戻ってきてしまう。

それどころか、もう一度捕まえようとするキラの手をひょいひょいっと避ける。



「もう、なんなんだよ、トリィ」



トリィはいつだってキラの肩に留まるか、空を飛んでいたはずだ。

そう、アスランが作ってくれている。

ついさっきまでは、そうだった。



なのになんでこんな・・・。



途方にくれるキラの耳に、くすくすと笑い声が届いた。

顔を上げたキラの視線の先に、アスランが顔を出している。



「どうした、キラ。

 遊んでもらってるのか?」

「あーっ!」



笑いを含んだアスランのからかいに、キラにも事態が飲み込めた。



「アスラン、トリィをいじったね!?」

「さて、どうだったかなぁ?

 キラに放って置かれて、トリィは拗ねているんだよ、きっと」

「そんなわけ、ないだろっ」

「あるんだよ、それが。

 キラ、今日はそこまでにして、出ておいで」



アスランは手を伸ばし、キラを引っ張り出す。

キラはアスランにされるままだ。



トリィ



ストライクから出たキラの肩に、トリィが留まる。



「キラ、無理することはないんだよ」

「無理なんか・・・」

「キラは民間人なんだ。

 それも中立国オーブのね」

「でも・・・っ」



キラはアスランの母の死を聞かされた時の衝撃が忘れられなかった。



レノアおばさんを、地球軍が殺した。

血のバレンタイン。

農業プラントのユニウスセブンに、地球軍が核を落とした。

キラとて、この事件は聞いている。

だが、それに知り合いが巻き込まれているなど、考えてみたこともなかった。

遠い世界の話だと思っていたのだ。



その地球軍の新兵器、アークエンジェルとGが5機。

それらの強さは、キラ自身が体験している。

こんなものを地球軍が量産したら・・・?

Gについては、ナチュラルがその能力を引き出すのはまだ無理だろう。

それでも、ソフト面が整えば、ザフトのジンと対等に戦えるかもしれない。

だからこそ、この艦はずっとアークエンジェルを追っていたのだ。

それらのデータを、地球軍の手に渡してはならない。

キラにもそれが、やっとわかった。



僕がやっていたことは・・・っ



「僕が、僕がストライクに乗ったりしなければ」

「そうしたら、俺がキラを殺していたんだよ。

 だから、キラは間違ったことなんかしていない。

 キラに非はない。

 罪があるのは、俺達の方だ。

 俺達が巻き込んだ。

 だから、思い詰めるのはやめてくれ」



キラは、アスランに掴まれた腕が痛かった。

アスランは穏やかにキラを諭しているように見える。

その腕が微かに震えていたりしなければ。



「アスラン。

 無理をしたりしてないよ。

 やりたくないことをしているんでもない。

 僕だって、早く戦争が終わって欲しいんだ」



その為に、僕はできることをする。



「それに、僕がうまくやれば、アークエンジェルを墜とさなくて済む。

 さすがに、知り合いが目の前で死んでいくのは見たくないよ。

 もちろん、この艦の人達も含めてね」

「キラ・・・。

 キラがそう言うなら、仕方ないな。

 でも、本当に今日はここまでだ。

 直すところがあるわけじゃないんだろう?」



***



この艦に来た1日目の後は、キラも同じベットでなどとは言わなかった。

・・・アスランの部屋から移ろうとはしなかったけれど。



「それで、アスラン。

 トリィになにしたのさ」

「ああ。まだ憶えていたんだ?

 大したことじゃないよ。

 キラがキーボードに向かいっぱなしになったら、ああやって拗ねるようにしたんだ」



無理できないように、ね。



*** next

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