偽り−36


キラは女の子


「君がストライクに乗っていたキラ・ヤマトか。

 君のことはアスランから聞いていた。

 だが、・・・かなり違うようだな」



キラは、アスランの上官だという目の前の人物から、観察するような視線を感じた。

・・・仮面で、実際のところはわからないのだが。

ちょっとビクッとしたキラはしかし、横に立つアスランの陰に隠れたくなるのを我慢し、口を開く。



「アスランは、知らなかったんです。

 僕は月ではずっと男で通していました。

 だから、アスランがあなたに嘘を吐いたわけでは・・・」

「ああ、気にすることはない。

 性別など、些細なことだ」



アスランが咎められるのではと心配したキラは、クルーゼの言葉に、ほっと安堵の息を吐いた。



「さて、あと3人のことだが。

 ミリアリア・ハウ、トール・ケーニヒは、身元の確認がとれた。

 キラ嬢のも、だ。

 ご家族も皆、ご無事とのことだ」



それはつまり、彼らの家族に、彼らの生存が伝えられたということでもある。

ヘリオポリス崩壊から、ずっと彼らの心に棲みついていた不安が、これで解消された。



「「「よかったぁ」」」



喜びに、キラはアスランに抱きつき、アスランもそのキラの耳元でよかったな、と囁く。

ミリアリアとトールは抱き合って喜び合った。



ヴェサリウスは本国からガモフのもとへの移動中に、ガモフからの通信を受けている。

4人の民間人の照会だ。

ガモフから直接オーブには通信できなかった為、ヴェサリウスが中継した。



「問題は、カガリ・ユラ。

 君の名は、これで間違いないのかね?」

「嘘を言ったつもりはない」



クルーゼの問いかけに、カガリはあっさりと答える。

周りで聞いていたキラ達3人の方がよほど動揺した。



「黙っていただけ、というわけか。

 では、カガリ・ユラ・アスハ。

 オーブ首長国連邦、代表首長ウズミ・ナラ・アスハの長女。

 それで間違いないかな?」

「ああ」



***



カガリはクルーゼと話がしたいと言い、残った。

ミリアリアとトールは、この艦ではすることもないので、自室へ引き上げる。

キラと、アスラン達パイロットは、格納庫へ。



「オーブのお姫様、ねぇ・・・」

「うーん。なんて言うか・・・」

「男として育ったはずのキラより男っぽくないか?」

「ディアッカもそう思います?

 イメージが崩れますよね・・・」



ディアッカとニコルはカガリの素性を聞いて、納得いかない、と首を捻りあっている。

イザークは、そんなことはどうでもいいらしく、さっさと行ってしまった。

キラとアスランは・・・



***



「父さんも母さんも、無事で良かった」



キラはアスランの腕に懐きながら、甘えるようにアスランを見上げる。

一時はアスランに触れるのを恥ずかしがったりしていたキラだが、すっかり元通りになっていた。



「そうだな。

 キラの両親が生きていてくれたのは幸いだった。

 俺は、もしかしたらキラとお二人を死なせていたかもしれないんだから」

「アスラン、もしかして、それをずっと気にしてた?」



すっと目を逸らしたアスランに、キラが顔を近づけた。



「ねぇ、アスランっ」

「いや。お二人には申し訳ないが。

 俺はキラのことしか考えていなかったよ。

 俺が、キラを殺さなくちゃいけなくなるのか、とね」

「アス、ラン・・・」



キラはその心の内をアスランに話して聞かせていた。

しかし、アスランがどんなに辛かったかには、考え至っていなかったのだ。

・・・自分のことで精一杯で。



「ごめん、アスラン。

 僕、僕は・・・っ」

「キラ。泣くことはないだろう?

 今はこうして同じ所にいるんだ。

 それに、良いニュースを聞いたばかりだろう。

 俺はキラが笑っていてくれる方が嬉しいよ」

「う、うん」



穏やかに微笑みかけてくるアスランに、キラも滲んだ涙を拭い、笑顔を向ける。



「あ、そういえば。

 アスランのお母さん、レノアおばさんは元気?

 アスランが軍に入っていたんじゃ、おばさん寂しがってるんじゃない?」



ふと思いついたというように訊くキラに、アスランの顔が微かに強ばった。

一瞬で元の笑顔に戻したが、間近に見つめていたキラが気づかないはずがない。



「何か、あったの?」



*** next

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