偽り−32


キラは女の子


「なぁ、おい。あいつらだけで放って置いていいのかよ?」

「心配なら、ディアッカがついていたらどうです?」



この艦には食堂が二つあり、今彼らが出てきた方は、通常使われていない。

民間人を保護したということで、彼らのために開放したのだ。

だが、だからといって、つい先頃まで敵艦にいた人間を放置していいのか?

ディアッカはちょっと気になって言ったのだが、反応が悪い。

ニコルはそっけなく、イザークとアスランに至っては、振り返りもしなかった。



「それで?

 話は聞けたのか?」

「だいたいは、な」

「だいたいだと?」



イザークの問いへのアスランの曖昧な答えに、イザークの目がつり上がる。



「イザーク。昨夜のキラは動揺が激しかったんだ。

 悪いが、尋問するような真似はできない。

 お前だって、あの時のキラを見ただろう」

「・・・服のことか?」

「それと、俺に女とばれたこと」

「ちっ・・・」

「ちょっと、お二人とも僕らにも説明してくださいよ。

 だいたい、ばれたってなんです?

 キラさんはどこから見ても、女性でしょう」



イザークとアスランだけで会話するのに、ニコルが割り込んだ。

アスランはそれに、ちょっと考える素振りを見せる。



どれだけ話していいものか・・・。

それに、できることならアルテミスでキラがされたことは黙っていたい。

しかし、それでこの3人が納得する説明ができるだろうか?



***



「なんだ、それ!?

 女の子になんてことするんだよ!」

「だから、怖い、って話だったんですね」

「それで、あの時の悲鳴というわけか」

「ああ。もう大丈夫だと思うがな。

 わかっているだろうが、キラにこの話は・・・」

「もちろんですよ。

 聞いたということも、言いません」



ニコルに続き、イザーク、ディアッカも頷く。



そんな思い出させるようなこと、できませんよ。

でも、それより・・・



「アスラン、もしかして、キラさんに手を出しました?」

「ニコル!?」



ニコルの鋭い指摘に、アスランが珍しく焦った顔をした。

それで、図星だと答えたようなものである。



「やっぱり・・・」

「なに、女とわかった途端、恋人か?」

「貴様、ここをどこだと思っている!?」

「違う!あ、いや違わないんだが・・・っ。

 キスだけだ!

 キラ自身に、今ひとつ女の自覚がないんだ。

 そんなで抱けるわけないだろう!」

「「「アスラン・・・」」」



3人に白い目で見られ、もともと動揺していたアスランは、言わなくていいことまで言ってしまった。

それが、さらに3人の目を冷たくさせ、同時に呆れさせる。



「それにしても、アスランもそんな顔できたんだなぁ」

「あ、僕も思いましたよ。

 あなたが優しいのは知ってますけどね。

 いっつも無表情で、とりすましているように見えるんですよ」



からかわれるように言われたアスランは、だがなんとか平常心をとりもどした。

この話題を外そうというわけではないが、大事な話が残っている。



「ストライクとシャトルが、"足つき"から脱出した経緯だが・・・」

「あ、そうですね、その話をしないと」

「どうやって、艦に気づかれずに脱出したんだ?」

「どうやら・・・」



苦笑しながらのアスランの答えに、聞いていた3人は耳を疑った。



「艦を乗っ取るなんて、そんな馬鹿な!?」

「モビルスーツからできることなんですか?」

「キラのプログラミング能力は俺より上なんだ。

 第一、キラがモビルスーツを自在に操るのを見ているだろう。

 なんの訓練も受けていないキラに、そんなことができるはずがない。

 キラがストライクのOSを書き換えたんだ」



まるで当たり前のように肩をすくめてみせるアスランだが・・・



「ちょっと待て。そんなことで納得いくか!」

「ストライクのOSを解析してみればわかる。

 ただ、またロックされているかもしれないがな」

「それはとても興味深いお話ですけど・・・。

 先ほどの件が本当なら、簡単に"足つき"を墜とせそうですね」

アークエンジェルという名前でしたか。



アスランの言葉の真偽を問うイザークとは違い、ニコルは冷静に算段を始めている。



「俺もそれは考えた。

 だが、キラがそれを承服するとは思えない。

 あまり友好的な関係ではなかったようだが・・・。

 やるなら、捕獲だな」



*** next

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