偽り−29


キラは女の子


「おはようございます、アスラ・・・・・・・・・」



食事中に横に立ったアスランに気づき顔を上げたニコル。

しかし、挨拶の途中で口を開けたまま、ぽかんとした。



「おはよう。

 ・・・どうした、ニコル?」

「誰ですか、その人?」

「・・・?」



ニコルの視線は、アスランの後ろ、キラに向けられている。

アスランは振り返りキラを見て、得心がいったというようにニコルに頷いてみせた。



この艦に、女性兵士は数えるほどしかいない。

だから、軍服を着ているのに見覚えが無いのが不思議なのだろう。

まあ、それにしては驚きすぎだが。



「昨日、会っただろう?

 いや、顔を見ただけだったか・・・。

 キラ・ヤマトだ」

「キラって、ストライクの・・・」

「キラ、彼は俺の同僚でニコル・アマルフィ。

 歳は俺たちより一つ下になる」



アスランの紹介に、キラはアスランの陰から恐る恐る出て、ニコルに近づく。

自分を凝視する相手に、ちょっと気後れしながらも、なんとか笑顔を作った。

しかし・・・



「はじめま・・・」

「えーーーーーっ!」



言い終らないうちに、ニコルの叫びに遮られてしまう。

至近距離での大声に、キラはびくっとしてアスランの後ろに隠れてしまった。



び、びっくりしたぁ。

遠くからだと、穏やかそうに見えたんだけどな。

優しそうだしね。

でも、何に驚いたんだろう、このニコルさん。



深呼吸をして気を落ち着かせ、アスランの肩越しにそっと窺う。

そこでは、ニコルがアスランに問いただしていた。



「アスラン、ほんっとうにこの人がストライクに乗ってたんですか!?」

「そういうことになるな。

 ・・・昨日、説明を聞いただろう。

 いまさらそんなに驚かなくてもいいと思うんだがな」

「だって!女の人じゃないですか!」

「ああ、やっぱり男だと思い込んでいたんだな」

俺もひとのことは言えないが、な。



ニコルの驚きと憤慨を前に、アスランは昨日の自分の鈍さを思い、苦笑した。

喜びやらなにやらで、イザークに指摘されるまで気づかなかったのだから。

ニコルを笑えない。



「アスラン、アスラン」

「どうした、キラ?」



つんつんと後ろからアスランの服を引っ張ると、アスランが振り向く。



「やっぱり僕、男物のがいいんじゃないかな?」



この人がそう思っていたってことは、他の人もそうかもしれないし。

僕は別に男と思われたって平気だしね。



「キラ・・・」

「ああ、すみません、キラさん」



キラの声で、やっと我に返ったニコルは、すぐさま体勢を整えた。

にこやかに、キラと相対する。



「失礼しました。

 先ほど紹介されました、ニコルです。

 はじめまして」

「はじめ、まして・・・、ニコルさん。

 僕は工業カレッジの学生で、キラ・ヤマトです。

 ・・・・・・もう無いですけど」



躊躇いがちに挨拶をし、自己紹介をしながら。

キラはヘリオポリスが崩壊したのを思い出し、声が小さくなっていった。



寂しそうなキラに、アスランもニコルもうまく慰められない。

その原因の一部は、自分達にもあるのだ。

だからといって、キラは謝られても困るだろう。

アスランは話題を変えることにした。



「キラ、どうだ?

 怖いかな?」

「ううん。平気みたい。

 アスランの言うとおりだったね」

「これで、安心してあの友人達に会えるな」

「・・・うん!」



心配事が一つ減り、キラは嬉しそうに頷く。

代わりのように、ニコルがアスランを軽く睨んだ。

言うに事欠いて、怖いとは何事か。



「あの、アスラン。

 怖いってなんですか、怖いって。

 僕が怖いわけないでしょう、イザークじゃあるまいし」

「あ、違うんです!あの、そういう意味じゃ・・・」

「キラ、落ち着いて」



ニコルの誤解で慌てたキラの頭に、アスランは手を置いて宥める。



「ニコルは怒っているわけじゃないから。

 とりあえず座って、食事にしよう」



*** next

Top
Novel


Counter