偽り−28


キラは女の子


「これを着てくれ」

「・・・これって軍服?女物なの?」



目覚めたキラが最初に見たのは、自分を見つめる翠の瞳。

大好きなその綺麗な瞳に、キラはいい気分で目覚める。

ぼぉっとしたままではあるが。



しかし、程なく、その顔を顰めた。

起き上がったキラに、アスランが差し出したものを見て。



かっちりしたその服には、ザフト軍の徽章がある。

見かけより軟らかい生地で、着心地は良さそうだったが・・・



「アスランのは真紅で格好良かったけど。

 これって緑色なんだね」

「一般兵士の軍服だよ。

 私服の類は、軍艦には無いんだ」

「あ、うん。軍服はいいけど。

 ・・・下は自分のじゃダメかな?」



キラはスカートを広げて、ため息を吐いた。



「上が軍服で下が私服だと目立つと思うよ。

 ああ、サイズが合わないのか?

 それなら替えてくるから」

「大丈夫!サイズは合ってるよ、多分・・・。

 ただ、僕、スカートって履いたことないんだよね」



すぐにも取替えに行きそうになったアスランをキラは引き止める。

持っていた服を戻し、ベットの上に座り込んだまま、それを嫌そうに見た。



「嫌いなのか?」

「う〜ん・・・。

 まあ、ズボンのが動きやすいしね。

 それに・・・」



言いかけてアスランを見たキラは、ちょっと顔を赤くして黙った。

だが、すぐに目を逸らし、続ける。



「ほら、アスランには女だって言ってなかったから。

 再会したときに、すぐに僕を僕だってわかって欲しくて。

 いくらなんでも、女の子してる僕じゃ無理だと思うもん」

「その言葉遣いもか?」

「・・・そう、だね。

 僕が変わらなければ、性別くらい違っても親友でいられるかな、って」



口にしてみると、思ったよりも恥ずかしい。

キラは耳まで赤くしながら、黙ってアスランの次の言葉を待った。



「嬉しいよ、キラ」

「え?」



思いがけない言葉に、恥ずかしさを忘れてアスランを見る。



「ありがとう。

 それって、月で別れてから、ずっと。

 俺のことを考えていたってことだろう?」

「え、あ、う、・・・うん。

 だって、絶対また会うから。

 アスランにどう思われるかが、ずっと心配だった」

「それで、もう心配は無くなったんだよね?

 だったら、これ着てみてくれる?」



アスランは、にっこりと笑顔で、キラが放り出した服を広げて差し出した。



「キラがどうしても嫌なんだったら仕方ないけど。

 女と知った以上、女性の服を着たキラを見て見たいな」

この軍服じゃ、物足りないけどな。



***



「うぅぅぅ。歩きづらいよ」



着替えたキラは、部屋の中を歩き回る。

あっちへテクテク。こっちへテクテク。

ようやっと気が済んだのか、今度はアスランの前で立ち止まった。



「どうかな?変じゃない?」



前や後ろをアスランに向けて見せる。



「アスラン?」

「あ、ああ。どこもおかしくないよ。

 そんなもんじゃないかな」



キラに見とれていたアスランは、名を呼ばれて我に返った。

体にぴったりとした軍服は、キラの体の線をはっきりとさせている。



これは、失敗したかもしれないな。

ディアッカあたりがちょっかいを出さないように気を付けないと。

それにしても・・・



「キラ、よく地球軍の艦で、男で通せたな」

「ああ、ゆったりした服だったしね。

 最初に男だって認識すれば、結構わからないみたいだよ」

みんな、それどころじゃなかったってのもあるけど。



「歩きづらいのは、慣れないせいか?」

「たぶんね」

「それなら、居住区以外はほとんど無重力だから平気だろう。

 そのうち慣れるだろうし。

 じゃあ、支度がよければ、食堂へ行こうか」



部屋を出ることを躊躇う素振りを見せるキラを、アスランは強引に連れ出した。



*** next

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