偽り−23


キラは女の子


「キラ、これを着て」



キラが飛び起きた勢いで、掛けられていたアスランの軍服が床に落ちていた。

アスランは立ち上がって拾い上げると、軽く叩いてからキラに差し出す。



「別に、寒くないよ?」

「寒くなくても、目の毒だよ」

「え?・・・あ、・・・そうだっけ」



不思議そうに赤い軍服を見たキラは、アスランの言葉で、やっと気づいた。

破けた自分の服を見やる。

相変わらず胸の膨らみが見えるが、別に下着が見えるほどではない。

それでも一応、と軽く前を合わせた。



「アルテミスで、なにがあった?」



その一言で、キラは一瞬、固まった。

だが、すぐに否定してみせる。



「なにも。特に言うようなことはなにもないよ」

「その服は?」

「ちょっと。ちょっと引っ掛けたんだよ。それだけ」



あんなこと、言いたくない。

口に出すと、吐きそうな気がする。

今もちょっと思い出して、もう気持ちが悪い。



「キ〜〜〜ラ〜〜〜?」



アスランはキラが受け取ろうとしない軍服を放り出す。

そして、キラの両頬を挟むようにして上向かせた。

少し顔色の悪くなったキラに顔を間近に寄せる。



「そんな言葉、俺が信じると思うの?」

「・・・」

「キラの嘘が、俺に通じたことある?」

「ない」

「そう。・・・話して、キラ。

 辛いことは溜め込むもんじゃない。

 吐き出してしまうんだよ」

「・・・・・・・・・だって」



キラの唇が震えながら動いた。



「気持ち悪かったんだもん!

 思い出すと、吐きそうなんだもん!

 それに・・・」



キラの顔がくしゃっと歪む。



「怖かったんだもん!」



わぁっと泣き出したキラは、アスランを叩き始めた。



「キラ・・・」



アスランはキラの顔から手を離し、胸の中に抱き込む。

感情が高ぶったキラは、藻掻いて抜け出そうとした。

しかし、アスランは腕の力を一層強くする。



やがて、キラも大人しくなり、その両手でアスランの服を強く握りしめた。



「あのね・・・」



キラはアスランの胸に頬を押しあてながら、ぽつりぽつりと、話し始めた。

アルテミスであった、嫌なことを。



***



キラの告白を聞きながら、アスランは唇を噛んだ。

怒りで、どうにかなりそうだった。



その地球軍の人間だけじゃない。

自分自身にも。

キラが助けを欲した時、自分はなにも知らずにいたのだ。



ストライクの中で、確かにキラは泣いていた。

それに、そう。

ストライクから出てきたキラは、悲鳴を上げたのだ。

駆けつけたコックピットの中で、キラは小さくなって震えていて・・・。



キラは、銃を向けられたくらいで、あんな悲鳴は上げないだろう。

そもそも、それではモビルスーツになど乗れる筈もない。



キラが、今もアスランを信頼していることはよくわかる。

そのアスランを相手にまわしても、友達を見捨てることが出来なかった。

こんなことがなければ、今もキラは一人で頑張っていたことだろうと思う。

そのキラが、あんなに怯えていた。



それも当然だろう。

そんなことの後では。



アスランは、さっき少し話したキラの友人達を思い出した。

顔も知らなかった彼らを、アスランはずっと恨んでいたのだ。

その為に、キラがアスランの手を取らなかったのだから。

だが、今は心から感謝する。



彼らは、キラのために逃げてきたのだ。

彼らだけなら、あの艦から逃げるほどのことはなかったろう。

そして、彼らがいる限り、キラも逃げられないことになる。

そんな状態が続けば、いつか。

そう遠くない、いつか。

キラは壊れてしまったかもしれない・・・。



*** next

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