偽り−19


キラは女の子


「あ・・・」



振り向いたアスランの顔が、驚愕へと変わるのを見て、キラはやっと思い出す。

アスランに会えた、ただそれだけを考えていてすっかり失念していたのだ。

キラはずっとアスランに男だと思わせていたことを。



いつもなら、いや、つい先頃まで。

アークエンジェルでだって、少年で通った。

しかし・・・



首から胸元まで切り裂かれた服は。

無重力と、そして無造作に動いたせいで、胸元が大きく開かれてしまっている。

慌てて前を掻き合わせるが、もうアスランには見られてしまっていた。



「キ・・・ラ?」

「アス・・・」



呆然と自分を見るアスランに、何か言わないとと思うのだが。

何からどう説明していいか思いつかない。



キラはアスランから視線を外し、俯いて目を閉じた。

不安で、アスランを見ていられない。

男だと思っていた親友が、実は女だったなど・・・

騙された、と怒るか。

いやそれだけなら、まだいい。

怒って当然だと、キラだって思う。

だが、アスランの顔に、キラへの嫌悪が見えてしまったら?



アスランの前から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

しかし、地に足のつかない今、その術がない。

アスランに背を向けることすら、簡単にできないだろう。



不意に。

キラは抱きしめられた。

もちろん、キラにはそれがアスランだとわかる。



それでも思わぬことにびっくりして顔を上げようとしたのだが・・・

キラの頭はアスランの胸に押し付けられて、動かない。

わけがわからず離れようとするが、力で敵うはずがなかった。



「・・・あの、アスラン?」

「ごめん」

「なにを言うの、謝るのは僕だよ」

「気づかなくて、ごめん。

 気づいてやれなくて、ごめん。

 黙っているのは、辛かっただろう・・・」

「そんなの、僕の都合じゃないか。

 アスランがそんなこと言うのは変だよ。

 ごめんなさい、嘘吐いていて。

 お願い、・・・嫌いにならないで」



最後の一言を小さな声で付け足したキラに、アスランはいっそう力を込める。

キラには苦しいほど。



「嫌いになるはずが、ないだろう。

 俺は、キラ自身が好きなんだから。

 男でも、女でも、キラであることに変わりないだろうが。

 バカなことを言うんじゃない」

「アスラン・・・。

 父さんと母さんとの約束だったんだ。

 たとえアスランにでも、言っちゃダメだって」



言いながら、キラの目からまた涙が零れる。



よかった・・・



アルテミスでのことから。

いや、それ以前、ヘリオポリスからずっとキラは不安を感じていた。

大事な友達を守らなければならない。

戦いを、戦争をしなければならない。

なによりも・・・

アスランを敵としなければならないことに。



そのアスランの胸でやっと安堵を覚えたキラは、すうっと、眠りに呑まれた。



***



クタッと、キラの体から力が抜けたのをアスランは感じた。



「キラ?」



返事が無いので、体を離してみると、キラが眠っているのがわかる。

その顔は涙に濡れていたが、表情が軟らかく、口元には笑みが浮かんで見えた。



疲れていたんだな。

ずっと、気を張りつめていたんだろうし。



知らず、アスランにも笑みが浮かぶ。



「もう、何も心配いらないから。

 ゆっくりお休み・・・」



そっとキラの髪を撫で、もう一度、今度は移動のためにキラを抱こうとして・・・

アスランの目は、再びキラの胸元に止まる。



なにがあった?



どう見ても、それは誰かに力づ゛くで破かれたものだ。

女である、キラが。

誰かに。おそらくは地球軍の誰かに。

キラは傷つけられたのだ。



アスランは、顔を陰らせた。



*** next

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