偽り−17


キラは女の子


「ニコル、そっちは任せる」

『え、ちょっと、アスラン!?

 どうするつも・・・』



キラの名を聞いたアスランは、素早かった。

ニコルにあっさり言い置き、返答を聞きもしない。

イージスを変形させ、ストライクを掴み、ガモフへ。



「キラ、キラ、返事をしてくれ」



やっとキラを取り戻せる。

アスランの頭には、もうそれしかなかった。



「キラ・・・。どうしたんだ?

 俺だ。アスラン・ザラだ。

 わかるだろう?

 キラ!」



***



カガリ達からの呼びかけは、もちろんキラに届いていた。

だが・・・



カガリとミリアリアには、なんともない。

しかし、トールの声も聞こえると、返事が出来なかった。

声が出なくなり、耳を塞ぎたくなる。

・・・友達だと、トールがキラに何かをしたりしないとわかっていても。

ましてや、初めて聞いた声。

ザフトのパイロットだという相手からの、声。

答えなければならない、と理性は訴える。

なのに、できなかった。

体の震えが、涙が止まらない。



力で適わない相手に対する恐怖と。

自分の性に対する、厭わしさ。



男だったなら、あんなことされなかったのに・・・

アスランと一緒だった時に戻れればいいのに・・・



ストライクのシートの上で、キラは耳を塞ぎ、丸くなって震えている。

と、その時。

外界を遮断していたキラに、衝撃が伝わった。

実際には、多少揺れる程度だったのだろうが・・・。

そして、キラを呼ぶ声。

キラはやっと目を開け、様子を窺う。



「・・・なに?」

『キラ!』



え?

今の、声は・・・



「アスラン、なの?」

『キラ!キラなんだな?』

「アスラン・ザラ?本物?」

『そうだ。・・・泣いているのか?』



途切れ途切れに、震える声で話すキラ。

それで泣いているのがわからないようなアスランではない。



キラが通信を切っているため、今は機体同士の接触による会話だ。

だから、互いに相手が見えない。

それでも、アスランにはキラが泣いているのがわかる。

キラにも、アスランがキラを心配しているのが伝わる。



「アスラン・・・」

『そうだ、こっちに来るか?』

「行きたい!・・・けど、・・・」



咄嗟に勢いよく答えたキラだが、すぐにハッとした。



無理、だよね・・・。



「行けない」

『なぜだい?』

「だって、着てないから」

『?・・・なにを?』

「パイロットスーツ」



キラの答えに、アスランは一瞬、絶句したようだった。

だが、すぐに気を取り直して続けてくる。



『すぐに、艦に着く。

 それまで、我慢できるか?』

「・・・・・・・・・うん」

『ほんとうに、すぐだからな。

 ちょっとだけ、待っていてくれ。』

「うん」



アスランが心配してくれるのが、キラは心地よかった。

昔に、帰ったようで。

いつだって、泣いたキラを慰めるのはアスランの役目だった。

キラに笑顔を戻してくれるのも。



アスランがすぐそこにいる。

それだけで、キラはだんだん落ち着いてきた。



アスランに会える。

そう思っただけで、キラの涙が止まった。

涙に濡れた顔に、知らず、笑顔が浮かぶ。



今のキラの頭の中には。

アスランのことしかない。

直接会える。触れ合える。

そんな、喜びだけだった。



*** next

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