偽り−5


キラは女の子


「早く!」



下からキラに呼びかけてくる女性が軍人なのは、キラにもすぐにわかった。

何処の軍か、は判断できないが。

オーブ、ザフト、地球軍。

軍人は嫌いだが、彼女はキラを助けようとしてくれている。



それに、あの人からこの事態の説明が得られるかも知れない・・・。



ちょっと躊躇ったが、キラは手すりを越え、モビルスーツの上に降り立った。



「あなたは、誰ですか?」

「地球連合軍のマリュー・ラミアス。

 君は?」

「僕は工業カレッジの学生、キラ・ヤマトです」

「なんで、学生が・・・、いえ、それどころじゃないわね」



マリューは既にコックピットのシートに座って起動準備をしている。



「これは一人乗りなの。

 シートの奥に入って、掴まっていなさい」



言われたとおりにしたキラは、マリューから血の臭いを感じた。

間近に見ると、彼女の額には、異様に汗が浮いている。



もしかして・・・



「怪我をしているんですか?」

「黙っていて、気が散るわ」



たどたどしい手つきながら、マリューはなんとか起動させた。

ペダルに足を置き、レバーを握る。



「立ち上がってよ・・・」



小さくマリューが呟いた。

それが聞こえたキラは、あまり考えたくない推測をする。



否定してくれるといいんだけど・・・



「あの、パイロットじゃないんですか?」

「違うわよ。お願いだから静かにしてちょうだい!」



マリューの操縦で、ゆっくりとモビルスーツが起きあがるが・・・



「「くっ!」」



次の瞬間、バランスを崩して倒れ込んでしまった。



「無茶苦茶だっ!

 動かせないんだったら、・・・!?」



衝撃で体を打ち付けられたキラは、マリューに怒鳴りかけて、口をつぐむ。

彼女は右手で左腕を押さえて呻いていた。

右手の指の間から、血が溢れだしている。



「傷が開いたんですね。

 すぐ、止血しないと」



キラは大きめのハンカチを使って、マリューの腕を縛った。



「ありがとう、悪かったわね」

「いえ。・・・出血が多いですね。

 ・・・・・・・・・席を替わって下さい」



今のマリューにはこれの操縦は無理なことは、明らかである。

迷った末、キラはそう申し出た。



「馬鹿な。素人に動かせるわけが・・・」

「あなたもモビルスーツは素人でしょう。

 少なくとも、怪我をしているあなたよりはマシですよ」



キラは有無を言わさず、力ずくでマリューを席から追い出す。

たとえ細身でも、キラはコーディネイターだ。

見かけよりも力がある。



マリューは驚いていた。

出血で体力が落ちているが、彼女は鍛えられた軍人である。

まさかこんな華奢な少年に力負けするとは思わなかったのだ。

とはいえ、言い争っている場合でもない。



「もう一機に、あなたの仲間が乗り込みましたよね?」

「え、ええ。・・・そうだわ。

 そこの、・・・そう、それでイージスに通信が開くわ」

「イージス?」

「あちらの機体名よ。これはストライク」



キラはマリューに言われるまま、イージスに繋いだ。

と、キラの正面に、イージスのコックピットが映る。

てっきり、先ほど見たマリューと同じつなぎを着た男が乗っていると思っていたのだが・・・



「お前は、ザフト兵かっ!?

 君、通信を切って!」



すぐ横でマリューに叫ばれたが、キラは動かなかった。

動けなかった。

そんなキラに焦れてたマリューは、腕を伸ばして通信を絶ちきる。



今見たものを、信じたくなかった。

勘違いだと、思いたかった。



マリューがザフト兵だと言った、相手。

赤い、おそらくはパイロットスーツに身を包んだその相手は。



アスラン・・・?



*** next

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