独り−45


キラは女の子


「お前達の婚約は、プラント中に知れ渡っているのだ。

 今更、無かったことになどできるものか!」



案の定、パトリックはアスランとラクスの婚約解消に異論を示す。

元々、本人達に関係の無いところで父親同士で決めたこと。

それを本人達の意志で翻すはずもないことは、アスランにもわかっていたことだ。



「父は賛成してくださってますわよ」



睨み合う親子に、ラクスが割ってはいる。



「父の、シーゲル・クラインは私の意志で、いつでも破談にして良いと」

「ばかな。そんなことは聞いてはいない」

「波風を立てる必要はございませんでしょう。

 父から聞いておりましてよ。

 本来は私達に了解を得てからの発表の予定だったこと」

「・・・」



アスランが、ラクスが、目の前のパトリックを説き伏せようとしている。

キラとアスランとが、結婚できるように、と。

キラはそれを目前に見ながら、しかし他の事を考えていた。



レノアおばさまが、いないって・・・?



話に夢中なアスランには話しかけることが出来ないキラは、傍らのクルーゼを見る。



「隊長さん」



小声で話しかけたキラに、アスラン達のやり取りを面白そうに見ていたクルーゼが振り向いた。



「アスランのお母様は?」

「聞いていないのかね?」

「何も。・・・知っているんですね?」

「アスランの母親は、・・・ユニウス・セブンにいたのだよ」



キラが知らないことを意外そうに聞き返したクルーゼは、あっさりとキラに答える。

事も無げなその口調とは裏腹に、その内容はキラにショックを与えるものだった。

キラは大きく息を吸い込み、手を口元にあて、微かに震え出す。



「そ、んな・・・。そんな、こと・・・っ!」



ヘリオポリスにいたキラとて知っている。

血のバレンタインと呼ばれる悲劇。

農業プラントに、地球軍が核を打ち込んだ。

およそ、1年前のことになる。

その時キラは、あまりのやりように眉をひそめた。

自分を守ることで精一杯だったキラにとって、だがそれ以上には・・・。



レノアおばさまが巻き込まれていたなんてっ!

地球軍が、ブルーコスモスが・・・っ!

なんで、みんなの命を奪っていくの!?



「キラっ!」



キラが涙を溢れさせ、やっと気づいたアスランがパトリックとの言い合いを中断し、キラを抱き寄せた。



「キラ、どうしたんだ、泣かないでくれ。

 何が・・・、隊長?」



キラとクルーゼの会話を聞いていなかったアスランにはキラが泣く意味がわからない。



「君の母君のことを訊かれて、答えただけだよ。

 言っておくべきだったな」



アスランは、キラを泣かせたくなくて、黙っていたのだ。

せめてこの艦にいる間だけでも、と。



「キラ・・・」

「ごめん、なさい、私、知らなくて・・・。

 自分の、ことばかり・・・。

 アスランだって辛いことがあったのにっ!」



抱き寄せられたアスランの胸にしがみついているキラ。

アスランはそんなキラの背にまわした腕に力を込める。



「俺のことはいいんだよ、キラ。

 キラには知りようが無かったことなんだ。

 それを言うなら、俺はキラの悲しみを知らなかった。

 キラはずっとひとりぼっちで泣いていたのに・・・。

 ごめんね」

「アスラン、・・・アスラン。

 おばさまも、亡くなっていたなんて。

 ・・・・・・・・・あ。

 アスランが軍に入ったのは・・・?」



キラがふっと顔を上げ、アスランと目を合わせた。



「もう、・・・大切な人を失いたくないから。

 早く終わって、・・・キラを捜したかった。

 こうして、キラを取り戻したかったんだ」

「アスラン・・・」



アスランが顔を寄せてくるのに、キラは目を閉じる。

互いの唇が触れようとしたその時。



突然聞こえた咳払いに、はっと二人が我に返った。



「アスラン・ザラ。通信中だ」

おぼえているかね?



苦笑混じりのクルーゼの言葉に、アスランとキラは顔を赤らめて離れる。

パトリックのことなど、すっかり忘れていた二人だった。



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