独り−38


キラは女の子


「ここが私の部屋ですの」



言いながらラクスは扉の横に立ち止まり、キラに先に入るよう即す。



「今、飲み物をご用意します。

 ・・・コーヒーで、よろしい?」

それしかないのですけれど。



テーブルセットなど無い部屋の中。

二人はカップを手に持ち、それぞれベットに腰掛けて向かい合った。



「さて」



俯き、手の中のカップを見つめていたキラは、ラクスの声に顔を上げる。



「お聞きしたいことがございますの」



キラの目に映るラクスは、それまでの彼女とは違った。

笑顔、ではあるのだが、目が・・・。



「アスランの幼馴染み、ですわよね?」

「は、・・・はい」



ラクスの変貌に緊張感の増したキラは、声を上ずらせた。



「アスランとは、何年お会いしていなかったのかしら?」

「3年、くらい、です」

「その間、どこにいらしたの?」



ラクスはまるでキラの身上調査のように、キラに質問していく。

キラは、なんでこんなに訊くのか、と思わないではなかったが、律儀に答えていた。

・・・自身の生まれに関連する事柄は、なんとか避けたが。



結局ラクスは、キラがこのヴェサリウスにいる理由まで全て聞き出してしまった。

飲む暇のなかったコーヒーは、もうすっかり冷えている。



「なるほど。そういうことでしたのね。

 では、もうひとつ」



納得したわ、というように頷くラクスからは、キラの話に対する感情の色は見つけられなかった。

相変わらず笑顔のままのラクスがどう思っているのかわからず、キラの中に不安が広がる。



「私と、アスランのことはご存知なんですわよね?」

「は・・・い。・・・婚約していると聞きました」

「ええ、そうですの。

 その上で、お聞きしますわ」



間を置かれ、キラは身構えた。



***



キラがラクスに連れられて行くのを見送ったアスラン。

そのアスランのところに、様子をうかがっていたニコルとラスティが寄ってきた。



「よぉ、アスラン。久しぶりだな!」

「あ?ああ、ラスティ。

 もう体はいいのか?」

「昨日、ドクターに退院を言い渡された。

 気を利かせてやろうと思ってたのに、キラが部屋を変えたんだろ?

 残念だったな!」

「まぁ、いつまでも同室、というわけにはいかなかったさ」

「そりゃ、そうか。でも・・・」

「そんなことより!」



なごやかに会話し始めた二人の間に、ニコルが強い口調で割り込む。



「ちょっと、アスラン。

 キラを彼女と二人だけで行かせて良かったんですか?

 なんか、怒っているように見えましたよ」

「どこがだよ、ニコル?

 笑っていたじゃないか」

「ラスティは黙っていてください!」



口をはさむラスティをキッと睨んで、ニコルはその口を閉じさせた。

そのニコルの様子に、キラを気遣っているのがわかる。

アスランはため息を一つ吐いた後、肩に入っていた力を抜いた。



「心配はいらない」

「ですが・・・」

「ラクスは確かにちょっと不機嫌になっているんだが。

 あれは俺に怒っているんだよ」

「アスランに?」

「彼女はキラをかなり気に入ったようだ」



***



「アスランをどうお想いですか?」

「えっと・・・」



返答を迷う様子を見せるキラに、ラクスはさらに詰め寄る。



「アスランのことが、お好き?」

「・・・」

「嫌い、ということはありえませんわよね」

「嫌うなんて、そんなことっ!」

「じゃあ、好き?

 もちろん、異性としてですわよ。

 お答えになれないのかしら?」



本当に、言っていいのだろうか?

迷いが捨てきれないキラは、だが黙っていても仕方がないと意を決する。



「私は、アスランが好きです」



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