独り−37


キラは女の子


なんか、ほんとに食欲が無くなっちゃったわ。



机を挟んでラクスと向かい合って食事をとりながら、キラは困っていた。

どんな配慮のつもりなのか、ニコルはラスティと別の席に移ってしまっている。



気になって顔を上げると、必ずラクスと目が合った。

そうすると、彼女はにこっと笑いかけてくる。

つられてキラも笑い返すが・・・



ラクスさんが私を嫌っていないらしいことはわかるんだけど。

なんでなんだろう?



ラクスがキラに友好的な態度をとったため、関心が薄れたのか、あからさまに目を向ける者はいなくなっている。

ちらちらと、二人をうかがい見る者くらいはいるが。

それでも、先ほどのように視線の圧力を感じなくなって、キラはほっとしていた。

しかし、それだけに、キラの意識がラクスに向かってしまう。



キラは、このままでは食べた気がしないと、思い切って口を開いた。



「ラクスさん、あの・・・」

「どうぞ、ラクスと呼んでくださいな、キラ様」

「あ、私もキラでいいです。

 それで、あの・・・」



訊きたいのに、あまりにもラクスが嬉しそうで、キラは言葉に迷った。

そんなキラに、ラクスは唇の前に人差し指を立てて見せる。

黙って、ということだ。



「この後、お時間はおありかしら?」

「・・・はい」



話をしよう、ということよね。

この艦にいるかぎり、私も彼女も時間は有り余っているもの。

断る理由は無いし、・・・早く決着つけたいわ。



「それでは・・・」

「キラ!」



言いかけたラクスの言葉を遮るように、入り口から声がした。

室内中の視線を集めながら、キラを呼んだ人物、アスランが駆け寄ってくる。

キラの横に立ったアスランは、見上げてくるキラを間近に確認し、安堵のため息を吐いた。

そしてキラの背後にまわると、椅子の背もたれ越しにキラを抱きしめる。



「アスラン・・・?」



アスランが慌てていた理由がキラにはわからず、キラは、ぽかん、として横にあるアスランの顔を見つめる。

と、微かな声を耳にして、振り返った。



「ラクス?」



見ると、ラクスが手で口を覆い、肩を震わせながら笑いを堪えている。



えっと・・・?

なにがなんで、どうしたのかしら?



「アスラン?」

「あ?・・・ああ、すまない」



キラからの再度の呼びかけに、やっとアスランが反応した。

キラにまわしていた腕を解く。



「どうかした?なにか、あったの?」

「いや、なんでもないよ」



心配そうに訊くキラに、アスランはやや顔を赤らめて否定した。



「そう、なんでもないですわよね」



向かいで見ていたラクスが口をはさむ。



「あなたがそんなお顔をなさっているのを初めて見ましたわよ」

「ラクス・・・」



うふふ、とそれは楽しそうに話すラクスに、アスランは顔をしかめた。

ラクスは立ち上がり、キラの横にまわってその手をとる。



「さぁ、キラ。

 私の部屋へ参りましょう。

 いろいろお話したいですわ」

「あ、えっと・・・」



自分の左右にいる二人を交互に見やり、キラは困惑する。



ラクスと話をする必要はあるけど。

アスランは、どうするのかしら?

なんか、イヤみたい。



「ラクス、俺もキラと・・・」

「ああ、アスランはどうぞ任務にお戻りくださいな。

 艦内の案内はキラにお願いしますから。

 ね、キラ」

「えっと・・・。ええ」



案内、はいいんだけど。

みんなにあれだけ案内してもらったから・・・。



微笑みながらもアスランに有無を言わせないラクスは、強引に話を進めた。

ラクスに手を引かれ立ち上がったキラは、反対の手をアスランにとられて振り返る。



「キラ、気が向かないなら・・・」

「私も、ラクスと話してみたいの」



アスランに握られた手は緊張のためか、冷たくなっている。

だがキラは、それでも笑みを浮かべてその手を抜いた。



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