独り−36


キラは女の子


「ったく、メシくらい食ってこいよ」



キラが朝食を取っていないと聞き、ラスティはキラの腕を引いて食堂へ向かう。



「う・・・ん、食欲が無くて」

「ダメダメ。昨夜も食ってないなんて、冗談じゃない。

 腹が減らないはずがないだろ」

「・・・」



今行ったら、ラクスさんがいるかもしれないわ。

せめて、アスランのいない時には会いたくないな・・・。



「そういや、アスランはどうした?」

「呼び出しを受けたんですって」

「それで、先に食べていろ、って言わなかったか?」

「・・・」

「言われたな、やっぱり。

 人間、食える時に食っとかないとな。

 まぁ、ラクス嬢と顔を合わせたくないのはわかるよ」



キラは、はっとしてラスティを見た。



「そういうことだよな。

 でもなぁ、先延ばしにしても仕方ないぞ。

 彼女はキラに会いたがっているんだろ?」

「アスランは、そう言ったわ」

「なら、さっさと済ませちまえ。な?」



ちょうど食堂についたラスティは、入り口から中をうかがう。



「いるいる。

 ニコルが相手してるよ。

 ・・・がんばれよ」



ラスティは入らず、キラを振り返る。



「・・・うん。ありがとう」



ラスティの言うとおりだわ。



キラは勇気を振り絞って、足を踏み入れた。

食堂内を見渡すと、軍服のクルー達に混じり、ピンクの髪の少女がいる。



と、入り口に立つキラに気づいた一人が、仲間に目配せをした。

それとともに、室内が静まっていく。

皆、ラクスとキラとを交互に伺っていた。



艦内には、既にキラのことは知れ渡っている。

そして、ラクスのことも。



キラを気遣う目、ラクスを気遣う目。

成り行きを面白そうに見る目もある。



静まりかえり、視線を集められ、キラは立ちすくんでしまった。



うっ、・・・くじけそうだわ。



そんなキラに駆け寄ってきたのは、ラクスと座っていたニコルだ。



「キラ。アスランが探していましたよ。

 さぁ、入って、入って。

 朝食、まだなんですよね?」

「あ、あの・・・」



にこやかに、ニコルはためらっているキラの背に手を当て、横に並んで席に導く。

その際、チラリと扉の外にラスティを認めたニコルは、背を向けながら声を掛けた。



「ラスティ、キラの分も持ってきてくださいね」



返事を待たないニコルに、ため息を一つ吐いたラスティは、それでもニコルの言うとおりにする。

久しぶりに現れたラスティに、そこにいたクルー達の視線が移った。

顔見知りの快復した姿に、笑顔を浮かべる者もいる。

妙な緊張感が続いているので、話しかけたりはしなかったが。



「ニコル、あの・・・」

「食事はラスティが運んでくるからこっちに座って待ちましょうね。

 ああ、アスランもすぐに戻りますよ」



かなり強引にキラの背を押すニコルは、キラが引き返そうとするのを許さなかった。

そんなニコルの横顔に目をやり、キラは自分が何を言っても聞かないだろうことを覚った。

諦めて前方を見やると、先ほど同様、こちらに背を向けた私服の少女が座っている。



彼女が、ラクス・クライン、よね?



「さ、キラ。ここに座ってくださいね」



ニコルが示したのは、ニコルが座っていた席。

少女の真向かいだ。

思い切ってキラが顔を上げると、初めて少女と顔をあわせることになった。

それまで振り向かずにいたラクスも、キラの顔を初めて見る。



「まぁ。・・・まぁ、まぁ、まぁ、まぁ!」



いつものように微笑みを浮かべていた彼女は、キラの目が合うと、さらに笑みを深くしながら立ち上がる。



「キラ・ヤマト様?」

「え、ええ・・・。あ、はい、そうです」



あまりにも嬉しそうな笑顔を向けられ、キラは戸惑ってしまった。



「初めまして、ラクス・クラインと申します。

 やっと、お会いできましたわね」



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