独り−34


キラは女の子


「ありがとう、キラ」

「・・・え?」



なぜ礼を言われるのか、キラにはわからない。



キラは、アスランに婚約者がいたことを知っても、アスランの想いを否定しないでくれた。

裏切り、不実、と言われても仕方がないというのに。

言葉だけでなく、キラが本心から言っていることがアスランに伝わってきた。

アスランのせいで泣いていたキラ。

そのキラのアスランに向けられた信頼と・・・愛情とが、アスランの気持ちを揺さぶった。



「信じてくれて、ありがとう」

「あ・・・、だって・・・。

 だってアスランは、私に嘘をついたり、誤魔化したりしないもの」



アスランの、キラを抱く腕に、さらに力が入る。

途端、キラが微かにもがいた。



「あ、アスラン、腕を解いて?

 話を、聞くから。

 ちょっと、苦しいの」

「あ、ごめん!」



キラの顔や胸がアスランの体にきつく押し付けられていた為、息がしづらくなっていた。

慌ててアスランは腕の力を緩め、キラの顔が見られる程度に体を離す。



「きゃっ!」



と、先ほど強引に抱き寄せたせいで、体勢に無理のあったキラがベットから落ちそうになった。

もちろん腕をまわしたままのアスランがキラを支え、ベットに座らせる。

アスランはそのキラの前に跪き、そんなアスランに驚くキラの両手をとった。



「ア、アスラン!?」



見上げるアスランと見下ろすキラの目が合う。



「俺と、ラクスの婚約は本当だ」



わかっていても、アスラン自身の口から言われると、やはり堪えた。

キラの手が震え、だがそれでもアスランから目を逸らしたりはしない。



「父と、彼女の父親が決めた。

 それを聞かされ時、すぐに拒否したさ。

 だが、父の方が上手だった。

 本人達を無視して、公表してしまったんだ。

 俺がラクス・クラインと対面したのは、その後のことだった」

もちろん、その頃すでに有名だった彼女の名も姿も、見知っていたが・・・。



「どんな、ひと?」

「歳は、俺達と同じだ。

 ・・・生まれ月だと、キラより先だけどね」

そうすると、年上、ってことになるのかな?



軽い口調で付け加えられた言葉に、キラが微かに赤くなった。



昔、まだキラがアスランに恋心を抱く前のころのこと。

キラの母が毎朝アスランに、キラのことをよろしくね、と頼むのがなんとなく悔しくて。

私の方がお姉さんよ!と、主張していた。

実際、キラはよく迷子になったりして、アスランに助けられていたのだけれど。



今思い出せば、キラは恥ずかしくてしようがない。



アスランのからかいで、昔の楽しかった時を思い、キラの肩から力が抜けていく。

そうして改めてアスランの表情を見直せば、そこには微笑みが浮かべられていた。



「いいひと、なのね?」

「ああ。尊敬しているよ」

「好き?」

「・・・一人の友人としてなら。

 俺の中にキラがいる限り、ラクスを女性として見ることはできないと思う。

 彼女にも、そう言ってあるんだよ」



仮にも婚約者に、言った?



「なんで・・・」

「友人になら、なれると思ったから、だな」

「それでも、今も婚約者でいるの・・・」



きっと、素敵なひとなのだろう、と思ったキラの瞳が陰る。



「婚約を解消することは、できない」



その一言に、それまでアスランから目を逸らすまいとしていたキラが、とうとう顔を背けた。



「わかってる。

 ディアッカ達から聞いたわ。

 プラントの希望の象徴になっている、って」

「・・・俺にもラクスにも、今はどうすることもできないでいる。

 だが、俺がラクスと結婚することは、あり得ない。

 俺はラクスにそう話したし、ラクスも同意している」

「・・・え?」



意外な言葉に、キラが思わずアスランを見る。



「愛している、キラ。

 こんな身で、こんなことを言う資格が無いのわかっている。

 だが、言わせてくれ。

 ・・・キラ、君を愛している。

 俺は、君と結婚したい。

 どうか、待っていてくれないか?」



待っても、いいの?



キラの顔がくしゃりと歪み、その瞳から涙が溢れた・・・。



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婚約者のいる身でプロポーズ・・・
アスラン手が早いから、ってちょっと違う?
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