独り−32


キラは女の子


「ありがとう、イザーク。ディアッカも」

「いや・・・」

「よかったのか、ほんとに?」



キラは荷物を・・・といっても衣服と小さなバックだけだが、アスランの部屋から持ち出し、別の部屋へ移動する。



「他に、どうしようもないでしょう?

 ああ、大丈夫よ。ほんと、そんなに心配しないで。

 でもそうね。・・・ひとりに、してくれる?」



諦めたような微笑みを浮かべたキラ。

イザークもディアッカも慰める言葉が見つからず、言われるままに退室するしかなかった。



***



部屋の中に一人きりになったキラはベットに腰掛け、物思いに耽る。



アスランの、好きと言ってくれた気持ちを疑ったりはしない。

だが、キラにだってわかっているのだ。

ザラ家は、名門。

月にいた時から、アスランの周りには人が大勢近づいてきていた。

アスラン自身は、そんな相手を如才なくあしらっていたけれど・・・。

そのアスランの結婚が、本人同士の想いだけで決められるものではない。

まして・・・



キラとアスランは、三年もの間、音信不通だった。

アスランが、キラ以外の人間を選んで悪いわけがない。

キラだって、再びアスランに会えることすらも、ほとんど諦めていたのだから。



「アスランの、傍にいられるだけが望みだったはずなのに」

なんで涙が出てくるんだろう・・・。



拭っても、拭っても。

キラの涙は止められなかった。



「変ね・・・。諦めるのは慣れているはずよ」



ひとりに、なった時から・・・。



***



ラクスを連れたアスランは、前方にイザークとディアッカを見つけた。

二人にはキラを預けたはずなのだが、キラの姿は無い。



「イザーク。キラはどうした?」

「部屋にいる」



この辺りの部屋は、使用されていないはずだった。

だがイザークは、たった今出てきた扉を指し示している。

そこは、アスランの部屋ではなかった。



アスランは訊きたかったが、ラクスの前では、と堪える。



「・・・そうか。

 ラクス、イザークとディアッカはご存じでしたね」

「ええ。イザーク・ジュール様と、ディアッカ・エルスマン様」

 何度かお会いしたことがございますわ」

「イザーク、ディアッカ。

 彼女はしばらくこの艦に滞在される」

「しばらく?」

「少なくとも、ラクスの乗っていた艦が発見されるまで、だな」



微かに顔をしかめたイザークに、アスランは理由を訊いているととって、そう答えた。

しかし、イザークはそんなことを気にしたわけではない。



その間ずっと、キラにあんな顔をさせておくつもりか、この馬鹿は!



顔つきを険しくするイザークに、ラクスも気づいた。



「イザーク様。私、大人しくしております。

 皆様にご迷惑をお掛けしないように心がけますわ」

ですから、そのようなお顔をなさらないで下さいな。



にこり、と笑いかけるラクスに、イザークもディアッカも態度を改める。

ラクスが悪いことは何も無いのだ。

悪いのは、キラを悲しませるのは、目の前の男の方である。



「失礼致しました、ラクス嬢。

 私のことは、イザーク、とお呼びください」

「あ、俺もディアッカでいいですよ」

「まぁ、それでは私のことも、ラクス、と呼んでくださいな。

 しばらくご一緒させて頂くのですもの。

 あまり他人行儀では、つまりませんわよね」



にこにこ、にっこり。

イザークとディアッカに向けて、満面の笑顔を浮かべるラクス。



「それで、キラ様はどこにいらっしゃるのかしら?」



思わぬラクスの問いかけに、イザークとディアッカは顔を見合わせた。



なんで彼女がキラを知ってる?

隊長か、アスランが話したんだろう?

だが、なんて説明したんだ?

キラに会うのが楽しみみたいだぞ?



二人は頭に疑問符を浮かべ、アスランを振り返る。



「「アスラン?」」

どういうことだ?



「ラクス。キラのことは、明日にしてください。

 ・・・ここが、あなたのお部屋です」



アスランは二人には応えず、ラクスをやや強引に部屋へと案内した。



*** next

キラをまた泣かせてしまいました。
別に悲しませたいわけではないんですけどね〜
やっぱり、キラは泣いてばかり、のイメージのせいかな?
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