独り−30


キラは女の子


「アスランは、ずっと軍人でいるの?」



仕事に一段落がつき待機室で休息をとっていると、キラがアスランに質問をし始めた。



「まさか。この戦争が終結するまでだよ。

 ・・・って、そうか」



言ってから、アスランはキラがザフト軍の内情について知らないことに気づいた。



「このザフト軍は、いわば市民軍なんだよ。

 職業軍人はとても少ない。

 皆、この戦争を終わらせたくて志願してきた」

「そうなの?

 じゃあ、戦争が終わったら、アスランは何をするの?」

「まだ、考えていないな。

 ああ、ニコルはピアニストだよ」

「え、そうなの。聞いてみたいな。

 どんな曲が得意なのかしらね。

 アスランは聞かせてもらったこと、ある?」

「いや、まだ無いな。

 ニコルと知り合ったのはアカデミーに入ってからだから」



と、そこに、そのニコルが駆け込んできた。 



「アスラン、大変です!」



***



丁度良く訪れたイザークとディアッカにキラを任せ、アスランはニコルと共に艦橋へ向かった。

実のところ、イザーク達はそのためにわざわざ出向いたのだが。



「何があったの?」



ニコルは説明をしないまま、アスランを引っ張っていってしまったので、キラは不安そうに訊く。

目の前の二人も、共にやや険しい顔つきをしていた。



「行方不明の艦があったのを知ってるか?」



イザークが重そうに口を開いた。



「ああ、ジンが何機も発進してた、あれ?

 悪い・・・知らせなの?」

「その艦はまだ見つからないそうだ。

 だが、救命ポッドをひとつ、ジンが持ち帰った」

「救命ポッドを使うような事態・・・」

「あそこら辺は、デブリ帯が近いからな。

 もし、艦が航行不能か、悪くして大破していれば、発見が困難なんだよ」



ディアッカの口調も、いつもの軽さが無い。



「それで・・・、なんでアスランだけが呼ばれたの?」



捜索の規模を拡大するなら、ここにいる二人も呼ばれるんじゃないかしら?



「ポッドに乗っていたのが、あいつの婚約者だからな」

「ディアッカ!」



何と答えようかとイザークがちょっと間を置いた隙に、ディアッカがさっさと説明してしまった。

どん!と、机を叩き立ち上がったイザークが怒鳴りつけるが、もう遅い。

怒鳴られて、はっとしたディアッカが口をつぐんでも、とっくにキラの耳にも頭にも、届いてしまっている。



アスランの、婚約者?

・・・アスランの?



「アスラン、婚約してたんだ・・・」



泣くか、と思われたキラだが、涙は零れなかった。

だが、俯いて、ぽつりと呟いたその様子だけでも、イザークとディアッカを動揺させるには十分だ。



「キ、キラ。婚約って言っても、親の決めたものだから」

「・・・あいつは、明らかにラクス嬢よりもキラのことが好きだぞ」



キラを慰めようにも、いい言葉が見つからない。

アスランがラクスと婚約しているのは、プラント中が知っている。

どのみち、キラがプラントに行くことになれば・・・。

しかし、何もこのタイミングで。

第一、二人ともアスランからどうするつもりなのかを聞いていない。

キラはアスランの傍にいる時が一番幸せそうに笑っていたのだ。

それが、これでは・・・



キラは暗い表情のままイザークを見上げ、問いかける。



「ラクス、というのが、アスランの婚約者なの?」

「・・・ああ。ラクス・クライン。

 プラント最高評議会議長を務める、シーゲル・クライン氏の娘だ」

「プラントの歌姫、って呼ばれてる。

 まぁ、アイドル、だな」

「ディアッカ・・・」



イザークが低い声で諫めるが、ディアッカは肩を竦めるだけだ。



「なんだよ。今さら黙っていたって仕方ないんじゃないか?

 誰でも知ってることなんだからな」

「そのラクス・クラインさんが、この艦に来たんですか。

 だったら、・・・今のままじゃまずいですよね。

 部屋を移ります。

 手配して頂けませんか?」

「「キラ・・・」」

「婚約者の部屋に私がいたら、その人が傷付きます」



そう言うキラ自身が、よほど傷付いているように、二人には見えた。



*** next

次で、やっとラクスが出ますね〜(たぶん・・・)
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