独り−21


キラは女の子


「キラ・ヤマトは、ヒビキ博士の関係者かね?」



隊長室に入ったアスランに、クルーゼが問いかけた。



「なぜ、そ・・・」



言いさして、はっとアスランは口をつぐむ。

キラの秘密を守ろうと考えていたのに、クルーゼからその名が出てきて、つい反応してしまった。

クルーゼは、そんなアスランの様子をじっと見つめながら話す。



「あの後いろいろと考えてみたがね。

 彼女の年齢で、あの男の名を知る可能性は低い。

 ましてや、私の名から連想するなど、な」



そう、キラはクルーゼの名前を聞いて動揺してしまっていた。

アスランはキラのことで頭がいっぱいで、すっかりあの時のことを失念していた。

キラの呟きは小さかったが、クルーゼには聞こえたのだろう。

まして、既知の名であれば。



「どうやら、君も知っているようだな。

 彼女から私の話を聞いたのかな?」



動揺し、血の気の引いたアスランから、クルーゼは判断する。



「なるほど。

 君が答えないのは、彼女のためか?

 だが、君で駄目なら、キラ・ヤマト自身に訊ねようか」

「それは!・・・それは、やめてください」



それは、キラ自身にあのことを話させるということだ。

そんなことをさせたら、キラが辛いだけだ。



「・・・彼女にも、秘密があるということか。

 アスラン、彼女を守るつもりでいるようだがな。

 君ひとりで、本当に守りきれるかね?」



確かに、今の俺に出来ることは限られている。

隊長が協力してくれれば、この艦内にキラを保護できるかもしれない。

だが、キラの素性を知って、果たして隊長は・・・



「隊長。ひとつだけ、先に訊かせてください」

「・・・なんだ?」

「ヒビキ博士を、どうお思いですか?

 ・・・恨んで、いらっしゃいますか?」



真剣に問うアスランに、クルーゼは意外そうな顔になった。



「・・・いや?

 あの男のことは、別だが。

 ヒビキ博士を恨みに思ったことは無いな、そういえば。

 こういう生まれで不都合はいろいろとある。

 しかし、彼がいなければ、今ここに私はいない。

 あの男の意に添わず、私をコーディネイターとしたのだ。

 それは、感謝しているよ」



信じて、いいのだろうか・・・?



アスランは、このラウ・ル・クルーゼを隊長として信頼している。

この艦に乗る者達も皆同様であろう。



信じてみよう、とアスランは思った。



「キラは、キラ・ヤマトは、ヒビキ博士の実子です」



アスランは、キラから預かったままのディスクを取り出した。



***



「16年前に、人工子宮に成功していたとは、な」

「そうですね。

 現在でも、成功例は聞いたことがありません」

「ああ。ブルーコスモスに狙われ、全員口をつぐんだんだろう」



アスランがディスクをしまうのを見ながら、クルーゼは問う。



「それは、キラ・ヤマトの持ち物か?」

「はい。ヤマト夫妻が亡くなり、後見人となった人物が預かっていたそうです」

「後見人?」

「オーブの、有力者のようです。

 詳しくは聞いていないので、わかりませんが」



と、クルーゼの机の上で電子音が鳴り響いた。

音からすると、艦内通話のようだ。



「どうした」



クルーゼはボタンを押して、通話をオンにする。



「隊長、パイロットを格納庫へよこしてください」



相手は、整備班の責任者だった。



「地球軍のモビルスーツの解析が終わったのか?}

「違います。

 あ、いえ、5機中4機は完了しました。

 ですが、1機だけ、どうしても起動できません」

「どういうことだ?」

「どうしたも、こうしたも。

 なぜかこの機体だけ、OSにロックが掛かってるんです」

「解除すればいいだろう」

「それが、昨日からずっとやってるんです。

 しかし、恥ずかしながら、歯が立ちません」



*** next

このクルーゼはコーディネイターです
薬で強化しているわけではありません
と、いうことでよろしく
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