今なら・・・−2 (本編28話より)




まさか、知り合いなのか?



キラがアスランの名を呼んだことで、聞いていた全員が疑問を浮かべて二人を見ている。

アスランはそれに気づいていたが、キラには周りに気遣う余裕は無かった。



「せっかく会えたのに。

 三年間、ずっとアスランが横にいなくて辛かったんだ」

「キラ・・・」



これまで何度キラに、自分と来いと言ったことか。

その度に、キラは行けないと言った。

だが、今のキラは・・・



アスランが迷ったのは、一瞬だった。



「おいで、キラ」



今にも泣きそうだったキラの顔が、アスランの言葉で驚きに変わる。

が、すぐに不安を浮かべた。



「行っても、いいの?」

「キラは俺の親友なんだから、当然だろう。こっちにおいで」



微笑むアスランに、キラは夢中で頷いていた。



「うん!」

「ちょっと待て、キラ」



柵から距離をとろうとしたキラの腕を、カガリが掴む。



「おまえ、何を言ってるんだ?

 そいつの素性を知っているのか?」

ザフト兵だぞ・・・



最後は小さい声だったが、キラには聞こえた。

なぜカガリがアスランを知っているのかはわからなかったが、もうキラにはどうでも良い。



「手を放して、カガリ。邪魔をしないで」



だが、カガリは放そうとはしなかった。

女の子に乱暴はしたくなかったが、もう、ここにいたくない。

キラは、カガリの手を力ずくで振り払う。



そして今度こそ柵から離れると、助走をつけて飛び上がった。

柵を越え、アスランの目の前に着地する。



「キラ!おい!おまえ!」



背後からのカガリの怒鳴り声など、気にならない。

やっと、やっとアスランが目の前にいる。

手の届くところに、アスランが。



キラはそっと手を伸ばす。

手の感触は、このアスランに会えたことを実感させてくれる。



「アス・・・」

「キラ。やっと帰ったね」



アスランの胸元に指先を触れさせたまま動かなくなったキラを、アスランは力一杯抱きしめた。

アスランにとっても三年ぶりのキラだ。

ようやくこの手に取り戻せた、大切なもの。



しかし、いつまでもこうしてはいられない。

キラの様子に焦れたカガリが、身を翻して走っていった。

きっと、キラを取り戻しにくるだろう。

その前に、ここを立ち去らなければならない。



アスランは腕を解き、キラの手を掴んで仲間のもとへ走り出す。

キラも引かれるまま走り、車に乗り込んだ。



「車を出せ、ディアッカ。早く!」



アスランに急かされて、ディアッカは反射的に車をスタートさせてしまう。



「って、おい。アスラン、そいつ・・・」

「おまえは運転に集中しろ、ディアッカ。

 追ってこられると、面倒だ。さっさと戻るぞ。

 で、アスラン?」



アスランの突飛な行動について訊こうとしたディアッカを遮り、助手席に座ったイザークがアスランを振り返る。



「いったい、どういうつもりだ?」



彼らにしてみれば、任務に支障を来すようなアスランが理解できなくて当然だ。



車の後部座席でニコルとアスランに挟まれて座り、息を整えていたキラは、はっとしてアスランを見た。



「大丈夫だよ、キラ」



安心させるように、アスランはキラに微笑む。

小さく頷くキラを確認してから、イザークに向き直った。



「任務は完了した。オーブを出る。

 説明は艦で、だ」



眉を寄せたイザークは、疑わしそうにアスランを見る。



「ふん。おまえが隊長だ。好きにすればいいさ」



***



「アスラン、どうするの?」



夢中でアスランについてきてしまったキラは、艦内にあるアスランの部屋に落ち着き、やっと現実を思い出していた。

いつまでも、キラの素性を黙っていることはできないだろう。



「正直に話すしかないさ。

 実のところ、クルーゼ隊長にはキラのことを話してあるんだ。

 だから、逆に誤魔化しはきかない」

「でも・・・」

「キラは何も心配しなくていい。

 俺がすべて、引き受ける」



それでもキラの顔に浮かんだ憂いは消えない。



「キラ。俺はキラがここにいてくれることが嬉しいんだよ。

 俺にとっても、キラは一番大事なひとだからね。

「で、でも、ラクスはアスランの婚約者なんだよね?

 ラクスが一番でしょ?」

「・・・ああ、そんなこと。

 あれは、父達が勝手に決めたことだよ。

 ラクスより、キラが好きだ」



きっぱりと言い切るアスランに、呆気にとられたキラは、しかし次の瞬間、嬉しそうに微笑んだ。



「僕も。僕もアスランが好き。

 他の誰よりも、アスランが好き」



***end
やっぱり、28話は心残りですね〜
あんなシーンで、二人とも理性の人にならないで欲しかったです
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