心の痛み (TV本編第10話の後)


この戦闘は捏造したものです
ラクスを帰した後、ヴェサリウスはプラントに向かうを遅らせ
ガモフと共に、アークエンジェルに再び追いついてます


僕はこんなところで、なにしてんるんだろう?

なんで、戦争なんかしてるんだろう。

なんで、大好きなアスランが敵なんだろう。

友達を、このアークエンジェルを守るためにストライクで戦った。
ただ、守るためだけに、戦ってきた。
けれど・・・。

アークエンジェルの、地球軍の敵はザフト軍。
地球対プラント、ナチュラル対コーディネイター。
それがこの戦争だ。
だからキラがストライクのパイロットで有る限り、「敵」はザフトのコーディネイター達だ。
キラもコーディネイターなのに。

キラには、ナチュラルだからどうと思う気持ちは無い。
友人達も、キラをコーディネイターだからといって、態度を変えたりはしなかった。
だからこの艦に乗るまで、コーディネイターがナチュラルから、こんなに負の感情を向けられているなど、考えたりしなかった。

いや、違う。少しは考えた。
でも、それはごく一部の人間だけのことだと思っていたのだ。

コーディネイターだというだけで銃を向けた、この艦のクルー達。
拾った救命ポッドに乗っていた民間人達のキラに向ける、視線。
アルテミスの司令官は、キラを裏切り者のコーディネイターと呼んだ。
友人達のなかでも、カズイはこの艦に乗ってから余所余所しい。
そして、フレイがラクスに発したコーディネイターのくせに馴れ馴れしくしないでという言葉。

このアークエンジェルにいるのが辛い。
戦争なんかしなくちゃいけないのが辛い。

アスランと、戦うのが辛い・・・

***

『総員、第一戦闘配備!繰り返す、総員第一戦闘配備!』

ベットで横になっていたキラは、即座に立ち上がり駆け出した。
気持ちが迷っていても、キラの体にはもう戦うことが身に付いている。
だがその顔は、とてもこれから戦いに赴く兵士のそれには見えない。
無表情で、しかしその瞳は潤んでいる。

キラがパイロット待機室に入ると、そこにはもうフラガがいた。
パイロットスーツに着替えながら、キラに話しかけてくる。

「坊主、相手はこの前と同じらしいぞ」
「そうですか」
「あのクルーゼの野郎はしつこいからなぁ」
「そうですか」
「ったく、あと少しで第八艦隊に合流できるってのに」
「そうですね」

また戦わなければならないこの状況に、少年の緊張を解そうと、フラガはわざと軽い口調で話しかけるのだが、キラはまるでのってこない。
いくらなんでも変だと思い、フラガはキラの正面にまわった。

「坊主?どうした?」
「なにがです?」
「おまえ・・・」

フラガと目を合わせたキラは、無表情なまま、静かに涙を流していた。

「なんで泣いてる?」
「泣いてません。それより急がないと。話をしている場合では無いでしょう」

キラには泣いている自覚は無かった。
それに、話なんかしたくないのだ。
この艦の中で、キラが本当の心を告げることは出来ないのだから。
戦いたくない、などとは。

だがフラガも、そんなキラをそのまま戦場に出すわけにはいかない。
この戦いに勝つ。敵を倒してやる。艦を守りきってみせる。絶対死なない。必ず生き残る。
なんでもいい。
その心が、力になる。
なのに今のキラには、そんな強い意志が感じられないのだ。

フラガは出ていこうとするキラの腕を掴み、引き留める。

「キラ・ヤマト、しっかりしろ!何を考えているかは知らないが、今のままだと、おまえ負けるぞ?死んじまうぞ!」
「・・・やれることをするんでしょう?」
「坊主!」

『フラガ大尉!キラ・ヤマト!なにをしている!敵MSは目の前だぞ!』

キラを正気に戻そうと手を振り上げたフラガだったが、ブリッジからの放送に気をとられて力が抜けてしまう。
フラガから腕を取り戻したキラは、さっさとMSデッキに向かった。

舌打ちをして、フラガもメビウス・ゼロへ搭乗に行く。

***

『坊主いいか、死ぬなよ。絶対に生き残れ。』

ストライクを起動したキラに、ゼロから通信が入った。
だがキラは、それに答えようとはしない。

『坊主!』
『キラ。敵MSはG四機です。進路クリア。ストライク、どうぞ!』
「キラ・ヤマト、ストライク出ます」

フラガの声に被さるように、ミリアリアからの指示が出て、キラはさっさと出撃した。

G四機。つまり、またアスランが来る。
フラガに言われるまでもない。
キラには、今の自分が満足に戦えないだろうことはわかっている。
気力が湧いてこない。
戦おうという気が湧いてこないのだ。
これで、彼らに勝てるわけがない。
わかっていても、行かなくてはならない。
キラはみんなを守るために、アークエンジェルにいる。
アスランの手を、心を振り切って、ここにいる。
守る、ためだけに。

***

メビウス・ゼロには、パスターが。

ストライクには、デュエルとブリッツ。

イージスは、アークエンジェルと交戦している。

キラは自分でも不思議だった。
デュエルとブリッツの二機を相手にして、ストライクはその攻撃をことごとく避けている。
相手の連携が悪いのも理由の一つだろうが、体が勝手に動いているような気さえする。
さすがに相手もストライクの攻撃を易々受けたりはしないので、双方攻防を繰り返していることになる。

『キラ!アークエンジェルが、イージスに!』

いつのまにか、アークエンジェルのすぐ傍に来ていた。
イージスがMA形態に変形して、アークエンジェルにスキュラを撃とうとしている。

アークエンジェルを沈めさせるわけにはいかない。

キラはストライクを、イージスの前、アークエンジェルとの間へ飛び込ませた。

『キラ!』
「駄目だよ。アークエンジェルは撃たせない」

イージスからの通信に、キラは答える。

「撃つのは僕だけにして」

***

『アスラン、なにやってる!さっさとストライクを撃て!』

ストライクに置いて行かれたデュエルとブリッツは、アークエンジェルからの砲撃で近寄れない。

だが、仲間からの言葉は、今のアスランには届かなかった。
モニターに映るキラは涙を流している。
それなのに、その顔にどんな感情も見えない。
明らかに、キラの様子がおかしい。
今まで対峙した時は、いつだって感情をむき出しにしていたのに。

『アスラン、撃たないの?』
「キラこそ、撃たないのか?」

ストライクは、イージス前にいる。
いる、だけなのだ。

『なんでアスランを撃つの?』
「敵、だから、だ」
『・・・じゃあ、アスラン、早く撃って。』
「キラ、おまえ・・・」

ピィーッ!ピィーッ!

アスランが言いかけた時、イージスが警報を発した。
アークエンジェルが、ストライクを避けるように回り込み、イージスを射程に捕らえたのだ。

*** next
またも、話を分けちゃいました
戦闘にヴェサリウスとガモフが出ないことは、つっこまないでください・・・
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