親友なのに (TV本編第5話より)


フェイズシフトダウンでストライクが持ち去られるところ


「アスラン、なんのつもり!?」
『このままガモフへ連行する。』

なっ!

「僕はザフトへなんか行かない!」
『キラ!いいかげんにしろ!
 このままだと、僕は君を撃たなくちゃならないんだ!
 僕に君を殺させるつもりか!?』

アスランの怒りがキラに伝わり、キラは息をのんだ。

『大切な人をも失いたくなくて、軍に志願したのに
 なんだって、その君と戦わなくてはいけない!?』

声を低くして、アスランは続けた。
『血のバレンタインで、母が死んだ。』

・・・え・・・?
な・・・に・・・?
今、アスラン、なんて言った?

「うわぁっ!」

アスランの言葉をキラがよく飲み込めないうちに
機体に衝撃があった。

『離脱しろ!AAがストライカーパックを射出する!受け取れ!』

イージスは、メビウス・ゼロからの砲撃で、離さざるを得なかった。
ストライクが、イージスの拘束から外れる。

『おい、坊主!さっさとしろ!』
『キラ!早く戻って!』

フラガとミリアリアから通信が入っている。
だがキラは、今アスランが言われたことで頭がいっぱいだった。

レノアおばさんが、死んだ?
ユニウス7で?
・・・地球軍に、殺された?

動きの止まったストライクは、格好の的だ。
だが、再びデュエルが攻撃をしようとする前に
なぜか、ブリッツがストライクを捕らえた。

『ニコル!お前まで、何する気だ!?』
『イザーク。このMSには既に戦意は感じません。
 アスランの言うとおり、捕獲できるならそのほうがいいでしょう。』
『もう俺達のエネルギーも少なくなってきたしな。
 さっさと、帰ろうぜ。』
『アスラン、行きましょう。』

G四機に、MA一機で敵うわけがない。
キラが逃げようとしないのでは、フラガは撤退するしかなかった。

***

着艦したブリッツは、反応のないストライクを
万一突然動き出したりしないよう、固定させる。

すぐに、ストライクの周りを銃を構えた兵達が囲った。

ニコル、イザーク、ディアッカの3人も
ストライクのパイロットには興味があるので見物する。

コックピットを開こうとしないストライクに
少しずつ、兵達が近づいていく。

が、その兵達の間をすり抜け
勢いよく、ストライクに近づく者が居た。

「おい、危ないぞ!」
「ちょ、ちょっと、無造作に近づかないでください!」
「アスラン!危険です!」

一瞬、皆、意表を突かれて見送ってしまった。

しかし、パイロットの乗る敵MSに、不用意に近づくのは危険だ。
焦って止めようとするが、時既に遅く
アスランは、さっさとハッチを開け
その上・・・コックピットに入り込んでしまった。

***

「キラ!」

ストライクのコックピットに入ったアスランが見たのは
両腕で自らを抱きしめながら、震えて俯いているキラ、だった。

「キラ・・・、大丈夫かい?」
言いながら、アスランはキラに手を伸ばし
固定ベルトとヘルメットを外してやった。
キラの両頬に手をあて、顔を上向かせる。

涙を溢れさせながら、キラはアスランと目を合わせた。

「おばさん、ほんとに死んだんだね?」
「・・・ああ」
「・・・っ。ごっ、ごめん、ね。ぼ、僕、知ら、なくてっ。うっ・・・っ」

顔を歪め、嗚咽を堪えきれないキラの頭を
アスランは、胸に抱き寄せた。

「キラ」
「ぼ・・・親友、なのに・・・っ!
 ア、スランが、辛い、時、・・・傍、に、いなく、て」

アスランに縋り付いて泣く

「キラ、泣かないで?もう、一年近く経つんだ。
 僕は大丈夫だから。ね?もう泣きやんで?」
「で、でも・・・!」
「ほんとに、泣き虫だな、キラは」
「だって、だ、って、・・・ひっく・・・アス、ラン・・・う、うっ・・・」

キラは、アスランが昔のままの優しい声で話しかけてくるので
なんだか余計に、涙を止めることができなかった。

「ああ、もう。仕方ないな」
今、キラが泣いているのは、僕のためだからな・・・。

アスランはこのまま、昔と変わらないキラを見ていたい気もしたが
さすがに、背後の視線が気になってきた。

泣いたままのキラをシートからひっぱり
アスランはキラを抱えて、コックピットを出た。

***

アスランの目の前には、仲間の三人がいた。
皆一様に、唖然としている。

常に冷静な態度しかとったことのない、あのアスランが
泣いている少年を慰め、大事そうに抱きしめているのである。
驚かないはずがない。

今のアスランは、いつも通りの感情を出さない表情をしている。
だが、先ほどまでのアスランは・・・見えなかっただけに、気になる。

「俺は、彼を部屋へ連れて行く。
 隊長へは、後ほど伺うと伝えておいてくれ」

誰も何も言わないので、アスランはニコルに頼んだ。

話しかけられて我に返ったニコルは、隊長からの指示を思い出した。

「あ、アスラン。隊長から先ほど連絡がありました。
 ストライクのパイロットについては、あなたに任せると。
 彼が落ち着いたら、一緒に報告にくるように、とのことです」

***

「キラ、涙は止まったね?」
「うん」

頷いたキラは、目が真っ赤になっている。

「目、痛くないかい?冷やすものをもらってこようか」

言ってそのまま離れようとしたアスランを
キラはその腕を掴んで引き留めた。

「待って。大丈夫だから、このままここに居て。
 せっかく会えたんだから、話しがしたい」
言って、キラは俯く。

「話しというより、言い訳になるけど」

***

「じゃあ、あの"足つき"・・・いや、AAか。
 AAには、キラの友人達を含めた民間人が多数、乗っているんだな?」
「うん。僕がストライクで戦わないと艦が墜ちるって。
 艦が墜ちたらみんな死んでしまうから。
 僕は、あのMSに乗ったんだ。
 決して、地球軍のためじゃない。でも・・・」
そこまで言って、キラは唇を噛み締める。

「もう、いいんだよ。キラが気にすることじゃない。
 キラはみんなを守ろうとしただけだ。
 友人達を見捨てられるようなキラじゃないってわかってる。
 責められるべきは、民間人を戦場に送り出した地球軍なんだよ」
「アスランは、優しすぎるよ。
 ・・・僕は、地球軍のMSで戦ってしまった。
 僕があそこにいなければ、ザフトは簡単に目的を果たせたんだろう?
 ヘリオポリスが崩壊することも無かった、よね」
「キラ・・・」
「かわりに、こうしてアスランと再会することも無かったと思うけどね」

キラがうっすらと微笑んだ。

「だから、それを後悔するつもりはないんだ。
 隊長さんのところへ、連れて行ってくれる?」

***

「事情はわかった。だが、このままという訳にもいかない」
「もちろんです。僕にできることがあれば、言ってください」

クルーゼは、クルーゼを毅然と見据え答えるキラと
そのキラを不安そうに見るアスランとを見比べ、笑みを浮かべる。

「では、あの地球軍の新造艦を墜とすのを手伝うかい?」
「隊長、それは・・・」

クルーゼの言葉は半ば予想通りだったとはいえ
キラが傷付くのを見たくないアスランだったが、キラは違った。

「条件をのんでいただけるなら、協力させて頂きます」
「民間人のことかね?」
「そうです。僕は彼らを死なせたくありません。
 AAには、降服を求めていただきたいんです」

***

「ほんとうに、良かったのかい、キラ?」
「もちろんだよ。アスランと一緒にいられるんだから」
「いや、そうじゃなくて、AAにいる友達のこと」
「うん。そりゃ、AAが降服しなかったら、そうなったら悲しいけど。
 僕にとっては、彼らより、アスランが大切なんだ。
 こうしてアスランが目の前にいる幸せを思い出したら
 もう、失えないよ。アスランは違うの?」
「違わない!」
「でしょ?だから、わかるよね?」
「・・・ああ」

にっこり笑うキラが愛しくて、アスランは抱きしめる。

「もう、放さないからな」
「放したら怒るよ」
「僕以外の人間を優先するなよ」
「しないよ。アスランが一番大事」
「約束だ」
「うん。大好きだよ、アスラン・・・」

***end
レノアさんが死んだって聞いて
キラが地球軍を嫌いになってもよかったと思いました。
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