どうしようもないから (TV本編第28話より) | ||
28話でM1アストレイの新OS発表後 まるっと、本編から外れていきます |
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「すごいわ。よくこんな短時間で。 ほんとすごいわよ、君」 昨日までのあの、ゆっくりとした動きまですら、やっと向上させたのに キラは一晩で、これだけのプログラムを作ったのである。 キラの書き換えたOSにより M1アストレイがその機体性能を発揮できる。 感激したエリカ・シモンズはキラを賞賛した。 しかし、キラはまったく嬉しくはなかった。 俯くキラに、エリカは首を傾げたが 疲れたのだろうと思い、提案してみた。 「ヤマト少尉、ずっとこれに掛かりきりだったでしょ。 このエリアの外へ行ってみたらどうかしら。 すぐそこに公園があるのよ」 「え、でも」 ここから出ないように言われているのに・・・ 「外っていっても、敷地内だもの平気よ。いってらっしゃい」 *** ひとり、ゲートを抜けたキラは エリカの教えてくれた公園へ向かった。 池のほとりのベンチに座り、ため息を吐く。 こんなことばかりやっているな、僕。 戦うことと、戦うためのこと。 戦ってもなにも変わらないのに。 いくら戦っても、終わらない。 どうすれば終わりになるのかな・・・。 は・・・あふっ・・・ ねむい・・・昨日寝なかったから・・・ 少しだけ・・・寝よ。 心身とも、疲れ切っていたキラは ベンチに横になって寝てしまった。 *** 「まるでダメだ」 「ちょっと、入り込むのは困難ですね」 「平和の国が聞いて呆れるな」 オーブに潜入した、クルーゼ隊のGパイロット四人は それぞれに動き回ったが、結局AAを見つけることはできなかった。 あとは、この工場区なのだが チェック体制が厳しく、中に入ることができない。 「入る方法を捜すより、入れる人間を捕まえた方が早そうだな」 いつもは突っかかるイザークも、この意見には同意せざるを得ない。 「あ、あの人。あの人って中に入れるんじゃないですか?」 辺りを見回していたニコルが指し示す。 池の向こう側で、ベンチに座ろうとしている人物は 自分達のとはちがう、オレンジ色の作業服を着ている。 「そのようだな」 「ここからじゃ、どんな奴かわかんないけどな」 「とりあえず、行ってみませんか?」 *** ベンチで寝てしまっているその人は 体格からすると、かなり若いようだ。 四人で囲んでは警戒されてしまうかもしれないということで 一番、警戒されにくいと思われるニコルが1人で話しかけてみて 他の3人は、少し遅れて近寄ることにした。 *** 「こんにちは」 戦闘の心配がなく、まったく警戒せずに眠っていたキラは 突然の声に、びっくりして目覚めた。 「・・・え?わっ!」 目を開けた途端、近くに顔があって、キラはびくっと引いてしまった。 「あ、すみません、驚かせてしまいましたね」 ニコニコと人懐っこい笑顔の、キラと同じくらいの少年だった。 「僕は、ニコルって言います。 モルゲンレーテで、僕と同年代の人って珍しくて つい、声掛けちゃいました」 「あ、そうなんだ」 「となり、いいですか?」 「うん。あ、僕はキラ。こんにちは、ニコルさん」 「こんにちは、キラさん。僕はニコル、でいいです」 「僕もキラって呼んでください」 柔らかく微笑みながら話すニコルに、キラも笑顔になった。 「僕、最近入ったばかりで、ここのことよく知らないんですけど。 キラってどこで仕事しているの?」 「え?」 「その作業服って、僕と違うでしょ?」 「ああ。僕、あそこの工場区で作業してるんだ」 そう言って、キラは柵の向こうを指した。 「え、じゃあ優秀なんだ。僕と同じくらいの歳なのに。 あっちには、選ばれた人しか行けないんでしたよね」 「あ、ううん。僕、ほんとはモルゲンレーテの人間じゃないんだ。 ほんの数日、手伝っているだけで」 言いながら暗い顔になったキラに、ニコルは心配顔になる。 「あの、ここでの仕事、嫌なんですか?」 「あ、うん。あんまり好きじゃない、かな・・・ プログラミングは好きなんだけどね。 それが戦うためってなると、ちょっと考えちゃって」 無理に浮かべたとわかるキラの笑みが痛々しい。 「でも、守るためには、必要なこともありますよね」 「守る?」 「ええ。・・・先日、近海で戦闘がありましたよね。 オーブに力が無ければ、オーブにも被害があったかもしれません」 キラはニコルの言葉を黙って聞いている。 「キラには、守りたいもの、あります?」 「守りたいというより、守らなくちゃいけない、かな。 守るために、大切な人を傷つけてしまったんだ。 最初に戻れたらいいのにな」 遠い目をしたキラに、背後から声が掛かった。 「最初に戻れば、僕と来るかい?」 とてもよく知っている声に、キラは硬直した。 アスラン? いや、そんなわけは・・・。 こんなところにアスランがいるわけ・・・ ベンチから立ち上がり、ゆっくりと振り返ったキラの目に 藍色の髪、翠の目の、懐かしい顔が映った。 「アスラン・・・」 「キラ」 見つめ合う二人に、ニコルは当然の疑問を放った。 「アスラン、キラを知っていたんですか?」 アスランとニコルが知り合い? 「そうだ」 「オーブに友人がいるなんて、言ってなかったじゃないですか」 「オーブにはいないさ」 「え・・・でも・・・」 アスランの言い様は、キラが友人ではないと聞こえる。 さっきの二人の様子は、親しい人のそれだったのに。 キラがアスランの言葉に傷ついていないかと ニコルがキラの顔を見ると、キラは蒼白になっていた。 「キ、キラ。アスランは・・・」 慌ててフォローしようとしたニコルの言葉は、キラには聞こえていなかった。 「アスラン。ニコルはアスランの仲間なの?」 「そうだ。あっちの二人もそう。同僚だ」 アスランしか目に入っていなかったキラは やっと、少し離れたところに立っている二人がいることに気づかされた。 「よく、潜入できたね」 「方法はいろいろあるさ」 「そうだね・・・」 そう、絶対に安全なんてことがあるはずが無かったんだ。 *** next |
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あんな柵を挟んでたら、持ってけないよなぁと。 | ||
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