どうしようもないから−2 (TV本編第28話より)




「おい、いつまで話してる?」
「待ちくたびれちゃうよ?」

いつまでたっても動かない二人に
その様子を眺めているだけだったイザークとディアッカが近づいて来た。

だがアスランは、キラだけを静かに見つめていた。

「アスラン・・・」
「キラ。四対一では逃げられないよ」
「そう、だね」
「君の意志は関係ない。
 君が守ることを放棄するわけじゃない」

話しながら、アスランが少しずつキラに近づいてゆく。
キラはそんなアスランに気づきながら、動けなかった。

「これはどうしようもないことだ。
 ナチュラル相手ならまだしも、なんの訓練もしていない君が
 軍人である僕たち四人を振り切れるわけがない。
 そうだろう?」

アスランの言葉は、キラの心を軽くするための言葉だ。
ずっと、アスランの手を掴めずにいたキラを
アスランはまだ、気遣ってくれるのだ。

キラの目に、涙が溢れる。
唇を震わせ、全身を震わせながら立ちつくすキラに
アスランは、そっと両腕を伸ばした。

やっとキラに触れることのできたアスランは
次の瞬間、キラを胸に抱き締める。

***

二人を見ていたニコルは困っていた。

利用しようと思ったキラがアスランと旧知なのはわかった。
だが、どんな知り合いなのかわからない。
それに、キラはアスランがザフト軍なのを承知しているらしい。
その上、キラは泣き出し、アスランはそのキラを抱きしめている。

自分たちはここに不正に侵入しているのである。
こんなところで騒ぎを起こすことはできない。

しかしこのままでは、困る。
AAの所在を知るために、ここにいるのだ。

イザークもディアッカも、処置無しとばかりに、そっぽを向いている。
ニコルがなんとかしないと、いつまでもこのままかもしれない。

口を挟むのは気がすすまなかったが、仕方ない。

諦めたニコルは、アスランに呼びかけた。

「アスラン。水を差すようで申し訳ないですが、時間がありませんよ」

***

ニコルの声に我に返ったアスランは、キラをそっと放す。

「彼を、キラ・ヤマトを連れて行く」
先ほどまでのアスランとは違い、無表情に告げた。

「って、アスラン、何言ってるんですか!」
「おいおい、ここで騒ぎは起こさないはずだろ!?」
慌てるニコルとディアッカ。

「そいつを連れて行ってどうすると?
 そもそも、任務はどうするつもりだ?」
「ここでの任務は完了した。もう必要ない」
「どういうことだ?」

なんと説明しようかと、アスランは迷った。
イザークはストライクのパイロットを憎んでいる。
ここで言えば、面倒が起こるかもしれない。
けれど、言わずにイザークが納得するはずがなかった。

「キラは、AAに乗っているんだ。
 つまり、キラがここにいるということは、AAもここにあるということだ」
「なんだと!?・・・貴様、地球軍か!」

睨むイザークに怯えたキラを、アスランは後ろに庇った。

「キラは、ヘリオポリスの民間人だったんだ。
 あのコロニーが崩壊するまでは、だが。
 以前クルーゼ隊長には報告してある。
 彼を連れて行くことは、隊長も了承してくださるだろうと思う」
「ふん。いいだろう。今は従ってやる」

「ちょ、ちょっと待ってください。キラ、あなたはそれでいいんですか?」
「ニコル。・・・ありがとう、いいんだ。
 残っても・・・もう無理だから」

アスランと戦うのは辛かった。
相手はイージスだけではなかったから、まだ戦えたのだ。
ここにいる三人はアスランの同僚だというなら
彼らは、デュエル、ブリッツ、バスターのパイロットなのだろうと思う。
なら、もう僕は戦えない。
ストライクに乗っても、彼らを倒すことができないなら・・・

「もう、アスランと戦うのは嫌なんだ。
 それに、君たちと知り合ってしまったから。
 戦えないよ、もう」

***

ゲートを出るのは簡単だった。
入るのとは違い、出る時はほとんどノーチェックなのだ。

***

カーペンタリア基地に向かう艦では、ニコルがキラについていた。

「キラは地球軍なんだよね。
 そうなると捕虜ということになってしまいますよ」
「一応、ね。少尉ってことになってる。
 捕虜の方がいいよ。そのほうが、ずっといい」

その言葉どおり、キラは穏やかな笑顔を浮かべている。

キラがストライクのパイロットだとは知らないニコルは
何に比べて、捕虜がいいとキラが言うのかわからない。
捕虜より嫌な立場とはなんだろうかと思う。
モルゲンレーテでのキラは、確かになにかを嫌がってはいた。
だが・・・

「ニコルは優しいね。この艦の他の人も。
 あの銀髪の人は怖かったけど」
キラが苦笑する。

「ああ、イザーク。彼はいつもああなんです。
 アスランと合わないみたいで」
ニコルも苦笑した。

***

「キラ・ヤマト君、だったね?」

カーペンタリアに着くと、アスランはすぐにクルーゼと連絡をとる。
通信室には、キラの他に、イザーク達三人も呼ばれた。

「はい。そうです」
「ふむ。君のことは、アスランから聞いている。
 幼なじみで親友だと。君にとってもそうかな?」
キラが、横目にアスランを見る。
「もちろんです」

既に覚悟を決めているキラは、毅然とした態度で答える。

「今そこにいるのは、君も承知したということだが
 君はこれからどうするつもりでいるのかな?」
「僕は捕虜でしょう。捕虜が自分で何かをしたりはしません」
「捕虜、か。
 実は君を捕虜にしたと、地球軍に伝えたのだがな・・・
 キラ・ヤマト少尉は存在しないと言ってきた」

それは、キラも予想しないではなかったことだ。
だからといって、悔しくないわけがないが。

「ふふふ。まぁ、言えないだろうな。
 地球軍の、たった一機でザフト軍のMSを凌ぐストライクのパイロットが
 民間人のコーディネイターだ、などとはな」
「「「ストライクのパイロット!?」」」

クルーゼの言葉におどろいたのは
周りで聞いていた、イザーク、ニコル、ディアッカの三人だった。

「聞いてないのか?」
「「「聞いてません!」」」

クルーゼは面白そうに三人を見渡し、最後にアスランに目を向けた。

「キラ・ヤマトについては、アスラン、君に任せよう」

*** next
う〜ん。ニコルがキラを呼び捨てにするのって、不自然な気がしてきました。
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